理由を伝えない方が伝わるケースもある

以前の投稿で「頼み事は理由を添えれば受け入れられやすい」という話をしました。大学でコピーの列に並んでいる学生に対して、「5枚なんですけど、先にコピーを取らせてください」と依頼したところ、60%の人が先に譲ってくれました。一方で、「5枚なんですけど、コピーを取らないといけないので先にコピーを取らせてください」と理由を添えて依頼すると、譲ってくれる割合は93%まで上がりました。

冷静に考えると、「コピーを取らないといけないので」というのは文法上は理由になっていますが、実質的な理由としては成立していません。コピーの列に並んでいる人はみな、コピーを取らないといけないから並んでいます。理由になっていない理由でも、理由なしで依頼するより効果が高いのです。ということは、理由の中身ではなく、理由を添えること自体が重要だといえるでしょう。

それでも、世間には「それは理由としてどうなの?」と言いたくなるような理由があふれています。企業などの組織が告訴されて、マスコミがコメントを取りに行くと決まって「訴状が届いてないのでコメントできない」というコメントが返ってきます。

単に「コメントできない」とか「コメントしたくない」だけでは、詮索される恐れがあります。「訴状が届いてないので」という理由を添えることで、「訴状が届いてないのであれば、詳しいこともわからないのでコメントできないものしょうがないか」となってそれ以上突っ込まれることはなくなるというわけです。

マスコミが訴訟の情報をキャッチしているのに、当事者に訴状すら届いてないことがあるのかという疑問も湧いてくるかもしれません。しかし、本人が届いてないと言っている以上、それを信じるしかないのです。

こういったケースで続報を聞いたことがある人はいないですよね。マスコミは「コメントできない」と言われたら数日おいて「そろそろ訴状届きましたか?」と聞いたりしないんでしょうか。

2016年、大手食品メーカーの明治は「明治おいしい牛乳」に関して、従来の内容量1リットルを900mlに変更し、パッケージの横幅を5ミリ小さくしました。その理由として「手が小さいお子様や握力が弱い高齢者でも持ちやすい」「従来品に比べ、筋肉への負担が1割軽減し、楽に注ぐことができる」ということを挙げています。

何の説明もなく、いきなり商品の内容量が減らされたら「ステルス値上げだ!」と騒ぐ消費者も出てきます。明治のように、その理由をしっかり説明すれば「そういう事情があったんですね」と納得してもらえるというわけです。しかし、実際には明治の思いは届かず、ネット上では「実質値上げでは?」とか「減量の理由が筋肉への負担軽減とか草も生えない」といった心無い意見も出ていたようです。

同じ2016年に、看板商品の「ガリガリ君」を60円から70円に値上げした赤城乳業の対応を見てみましょう。赤城乳業は、25年ぶりにガリガリ君の値上げをするにあたって、テレビCMを流しました。

CMでは、赤城乳業の社員たちが神妙な面持ちで整列をしていて、BGMではCM用のオリジナルソングが流れています。最後に社員一同深々と礼をしてCMが終わります。CMソングは「値上げは全然考えぬ 年内値上げは考えぬ」から始まりますが、最後は「値上げはやむをえぬ 値上げにふみきろう」で終わります。

このお詫びCMは広告賞を総なめ。ネット上では値上げに対する不満よりも、「よく今まで頑張った」といった好意的な声が溢れました。

赤城乳業のケースでは、値上げに関して具体的な理由がまたく述べられていません。単に値上げするという事実だけが伝えられて、社員が何も言わずに礼をしているだけです。下手に取り繕った理由を添えるよりも、潔く事実だけ伝える方が誠意が伝わるということもあるようです。

とはいえ、ガリガリ君のブランド力や広告戦略の巧みさなどが相まっての結果ですから、素人が真似をすると火だるまになって終わりというリスクもあるので注意が必要です。

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