平均への回帰を知ろう

ある空軍の訓練教官は、訓練生がうまく曲芸飛行をできたときは大いに誉めます。ところが次に同じ曲芸飛行をさせると、だいたいは前ほどうまくいきません。一方で、曲芸飛行がうまくできなかった訓練生は厳しく𠮟りつけます。叱られた訓練生は、たいてい次の飛行は前よりうまくできます。この事実をもって、「人は誉められるとつけあがって次は失敗する。叱られると次は頑張ろうと思って成功する」と結論付けることはできるでしょうか。

そのような結論は早計です。飛行訓練で起こった出来事は、「平均への回帰」という用語で説明できます。教官が訓練生を誉めるのは、平均をかなり上回るパフォーマンスを見せたときです。そのときはたまたまうまくできただけという場合が多いので、次は前回ほどうまくできない可能性が高くなります。教官が訓練生を叱るのは、平均よりもかなり悪い飛行だったときですから、次は前回よりもましな飛行ができる可能性が高くなります。

訓練生の持っている実力値が100だとすると、150点のパフォーマンスや50点のパフォーマンスは、本来の実力から考えるとそう頻繁に発生するものではありません。そういったパフォーマンスの後は、本来の実力に近い結果になることが予想されます。つまり、教官が誉めるか叱るかというのは、結果には関係がないと考えられます。

それでも「誉めたり叱ったりすることがパフォーマンスに影響を及ぼす」と主張したいのであれば、飛行後に誉めるパターン、叱るパターンの他に、対照群として教官が何もしないパターンも加えて比較する必要があります。

チェーン店を運営している企業では、店舗に数値目標を設定します。それらの目標は、たいてい前年度の数値を参考に設定されます。「前年売上1億だったから今年は目標1億2千万ね」といった感じで目標を決めているところも少なくないでしょう。

このような目標設定のやり方は、平均への回帰の原則を無視しています。店舗の売上は、店舗スタッフの実力の他、立地や周辺の人口、環境等の要素に影響されます。それらの要素から、「その店舗の平均実力値」が決まります。

ある店舗が平均実力値を大きく上回る売上を達成したら、次年度はその売上の数割増の目標が設定されます。しかし、平均への回帰を考えると、その店舗は数割増の売上どころか、その年を下回る売上しか上げられない可能性があります。

「風邪をひいたときは首にネギを巻くといい」

こんな民間療法を聞いたことがないでしょうか。首にネギを巻いて風邪が治った人はたくさんいるでしょう。しかしそれがネギの効果によるものだったのかどうかは、ネギを巻かなかった人と比較しなければ判断できません。

風邪をひいているときは、平均的な健康状態ではありません。人間には特段の治療を施さなくても、自分で病気を治す力があります。通常の風邪であれば、家で安静にしているだけでいずれは回復するものです。我々は、風邪が治ったときにたまたま取った行動を「ちょっと変わった風邪の治療法」として解釈してしまいがちです。多くの場合、自分の力で平均的な状態に戻っただけです。

骨折の治療法に関する以下の文を読んでみてください。内容は私が適当に考えたものです。

「骨折しているときは牛乳をたくさん飲むと治りやすい」
「骨折しているときは特殊な呼吸法を試すと治りやすい」
「骨折しているときは1日1時間以上万華鏡を見ていると治りやすい」

後の文になるほど、怪しくなりますね。どの方法を採用しても、いずれ骨折は治ります。何もないときにこんなことを言われても、「適当なこと言うな」としか思わないでしょう。しかし、実際に骨折して心も体もダメージを負っているときに、こんなことを言われたらどうでしょう。それを半信半疑で試してみて、実際に骨折が治った事実をもって「画期的な治療法だ!」と信じてしまうかもしれませんね。これに似たようなことは世の中にあふれているので、注意が必要です。

コメントを残す