銭湯の規制に関する経済学

先日、久しぶりに銭湯に行ったら料金が520円になっていました。去年500円になって「安いスーパー銭湯と変わらなくなったな」と思っていたのですが、さらに値上がりしました。

銭湯(公衆浴場)の料金は、物価統制令によって規制の対象となっています。物価統制令は、終戦直後の1946年、物価や国民生活の安定を目的に施行されました。当初は様々な食料や物品が規制の対象となっていましたが、2023年現在では公衆浴場の入浴料のみが対象となっています。

物価統制令に基づき、銭湯の入浴料は都道府県ごとに上限が決まっています。上限価格が改定(改定といっても値下げになることはなく、事実上の値上げ)されると、その都道府県の銭湯の入浴料は、一斉に値上げされた上限価格に設定されます。

あくまで「上限価格」ですから、「うち入浴料据え置きです」という選択も可能ではありますが、慣例やしがらみからそういった抜け駆けはできないのでしょう。一般企業が同様のことをやると、独占禁止法により処罰される可能性があります。

しかしなぜ銭湯だけが物価統制令の対象なのでしょうか。1963年の調査では、一般家庭の浴室保有率は59.1%でした。確かにこの時代であれば、銭湯は公衆衛生や生活レベルを保つために、価格の統制が必要だったかもしれません。

しかし現在は、浴室保有率は95%以上まで向上しています。ほとんどの家庭に風呂がある状況において、銭湯は国民生活に必須なものではなく、娯楽やちょっとした贅沢の類に変化したといえます。法令で価格を統制する必要性があるのか疑問に思う人もいるでしょう。

銭湯は物価統制令で制限を受けるかわりに、行政から様々な恩恵を受けています。銭湯は法律で距離制限が定められています。これにより過当競争を避けることができますし、新規参入の障壁にもなります。また、銭湯は自治体から手厚い補助を受けています。施設の改修に関して補助金が出たり、光熱費が割安になったりといった補助を受けられます。

銭湯が物価統制令の対象から外れると、同時にこうした行政からの恩恵がなくなることが予想されます。そのため銭湯業界は、銭湯が物価統制令の対象であり続けることを希望しているようです。

ここで、過去50年の都内の銭湯における料金(大人1人)推移を見てみましょう。

青い線が銭湯の料金を示しています。1973年には55円だったものが、2023年には520円になっています。赤い線は消費者物価指数です。1980年の指数を、同年の銭湯料金195円に合わせて195としています。

消費者物価指数は1980年から2023年にかけて、1.35倍になっています。一方で銭湯料金は2.67倍になっています。物価指数の伸びを超えるペースで銭湯代が上がっていることがわかります。

内風呂が普及すれば、銭湯の利用者が減るのは当然です。利用者が減ったときに、事業者が取れる手段は以下のようなものがあります。

(1)利用料を上げる
(2)利用者を増やす
(3)費用を下げる

売上は利用者数×利用料で計算できます。(1)の手段は、利用者数が減った分、値上げをして売上を確保する目的です。ただし、値上げを受けてさらに利用者が減る恐れがあります。(2)は、減った利用者を呼び戻すために様々な工夫を凝らして、ライバルとの競争に打ち勝つ必要があります。(3)は利用者が減って売上が減っても利益を確保するための手段です。

自由競争市場においては、自分の強み/弱みや周辺環境を鑑みて、適切な手段を選んで実行することになります。しかし、銭湯業界は物価統制令の制限を受けて結束することで、(1)の手段を取りやすくしています。

都道府県内すべての銭湯が、入浴料を定められた上限価格に設定することで、利用者は「安いところを選ぶ」ということができなくなります。値上がりしても引き続き銭湯を利用したいという層は一定数いますから、値上げ前の利用客が値上げ後に来なくなるリスクは最小限に抑えられます。

物価統制令とそれに伴う行政の補助によって、多くの銭湯が廃業を免れているのは事実でしょう。とはいえ、あまり値上げが過ぎると庶民としては気軽に楽しめなくなってしまうので、ほどほどに留めてもらいたいものです。

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