保健学の専門家、バターフィールドとリーガーは、アメリカ人に健康的な食生活を推進する方法を研究していました。彼らは牛乳に目を付けました。多くのアメリカ人は牛乳を飲みます。そして、牛乳は一般的なアメリカ人の食生活において最大の飽和脂肪の摂取源でした。
脂肪は重要なエネルギー源のひとつです。しかし、飽和脂肪を摂りすぎると、血中総コレステロールが増加し、循環器系の疾患リスクが上昇することが予想されています。
計算した結果、アメリカ人が毎日飲んでいる牛乳を、全脂肪乳から無脂肪乳、あるいは低脂肪乳に切り替えると、アメリカ農務省が推奨する飽和脂肪の水準まで下げられることがわかりました。
そこで、バターフィールドとリーガーは、消費者に無脂肪乳か低脂肪乳を買ってもらうキャンペーンを仕掛けました。とはいえ、「健康のために、全脂肪乳から無脂肪乳に切り替えましょう」ーそんなありきたりのキャッチフレーズでは消費者は動かないでしょう。ふたりは、よりインパクトのある手法をとりました。
記者会見で、試験管入りの脂肪を見せたのです。それは約2リットルの全脂肪乳に含まれる脂肪の量と同じでした。見た人は「気持ち悪い!!私たちはこんなものを飲んでいたのか!!」と嫌悪感を抱くでしょう。
消費者の感情に訴えるこのキャンペーンは有効でした。キャンペーン対象の店舗で、低脂肪乳のシェアは18%でしたが、キャンペーン後は41%にまで伸びたのです。
フィットネスクラブでもこの手法は取り入れられています。「脂肪 1kg」というワードで検索すると、脂肪1kg分のサンプル写真がたくさんヒットします。どれも乳白色のブヨブヨした塊で、気持ち悪い見た目をしています。見た人は「自分の体にこんな脂肪が溜まっているのか・・・頑張って脂肪を落とさないと」と思うことでしょう。
人の心は正論だけでは動きません。「脂肪過多な生活を送ることによって、このようなリスクがあります」というデータをたくさん見せられると、「そうか。気を付けないと」とその場では思うでしょう。しかし、行動を変えるまでには至らないことが多いのです。
正論だけではなく、感情に訴えかけるものを示されると、人は行動を変えやすくなります。そのために、写真・動画大きな役割を果たします。そこにわかりやすいストーリーが絡んでいると効果倍増です。
スーパーコンピューターを使って、室内での飛沫が飛散する様子を示した映像を見たことがある人は多いでしょう。青や赤で色付けられた飛沫モデルが室内に拡散され、人物モデルの顔も飛沫モデルに覆われていく様子を見ると、人は感情を動かされます。
このシミュレーションが実施される以前から、飛沫は拡散されていました。我々はそのことをなんとなく認識していたはずです。しかし、シミュレーションによって明確に映像化されると、見た人は「飛沫ってこんなに飛び散ってたんだ!怖い!!」と感情を動かされます。
人の行動を変えたければ、客観的なデータだけでなく、感情を動かすインパクトのあるものを見せることが重要です。逆に、インパクトのある映像などを見たときは、「確かにこの映像はインパクトがあるけど、客観的なデータはどうなっているんだろう」と立ち止まって考えてみると、冷静な判断ができるでしょう。