日本語には「和語」と「漢語」というふたつの言葉が存在します。和語は日本で古くから使われてきた言葉です。漢語はもともと中国の言葉で、のちに日本語として取り入れられたものです。一般的には、訓読みの言葉が和語で音読みの言葉が漢語ということがいえます。
「ここに車を止めないでください」というのは和語を用いた表現です。「ここは駐車禁止です」というと漢語を用いた表現になります。和語のほうが印象が柔らかく、漢語は簡潔で、かたい印象です。
ビジネスシーンでは、漢語が好まれる傾向があります。漢語のほうが論理的に思えるし、なんとなく格調高く感じられるからでしょう。
「必要なことがすべて書かれているか見ること」と書くより「必要事項がすべて記載されているか目視すること」と書いたほうが、しっかりチェックしている雰囲気が出てきます。「見る」よりは「目視する」、さらに「目視を実行する」までいけばより厳格な感じがします。
出された指示が間違えていて、上司が訂正版を出してきたときに「最初の指示は忘れてください」と言ってきたら、「なーんか適当に仕事やってんなー」と思うのではないでしょうか。一方で、「最初の指示はご放念ください」だと、「そうか、放念しないとな」と素直に受け入れられるでしょう。
役所やそれに準ずる機関は、漢語を駆使するのが得意です。漢語を使ってどうとでも取れるような文章を次々と生み出しています。公的な補助金の要項では「整備する」という単語がよく使われます。例えば事業再構築補助金の公募要領では「補助事業により整備した施設等の財産に対して根抵当権の設定を行うことは認められません」と書かれています。「整備した」というのが、「建てた」「買った」「必要な設備などをそろえた」など様々な解釈があり得ます。しかし、あえて明確にかかずにいろいろな意味にとれる「整備する」という単語を使っているのです。
日々発生する不審者情報を発信している「日本不審者情報センター」という機関があります。こちらの不審者情報では、独特な漢語が使われています。
例えば、2023年7月5日配信記事。「愛知県警によると、5日午前7時30分ごろ、江南市藤ケ丘6丁目の路上で女子生徒への凝視が発生しました。」
確かに「じっと見た」だと、そこまで不審な感じはしません。「凝視した」と書くと、不審度が増してきます。しかし、「凝視が発生」はやりすぎではないでしょうか。「事件が発生」とか「火災が発生」というのは聞いたことがありますが、「凝視が発生」というのは初めて聞きました。なんだか目玉が単体で動いて睨みつけているようなイメージで恐ろしいです。
今度は2018年6月27日配信記事。「稲城市によると、26日午後4時30分ごろ、稲城市矢野口で男性による放尿が発生しました。」
「尿を出した」だと緊迫感がないので「放尿した」というのはまだわかります。しかし、やはり「放尿が発生」はやりすぎでしょう。記事の書き方が発生縛りなのかもしれませんが、もう少し自然な表現はなかったのでしょうか。
和語と漢語、それぞれの特徴を踏まえて上手に使い分けていきたいですね。