論理的誤謬のわな

「太郎くんは昨日お兄さんとケンカをしました。今日、学校に来たとき太郎くんの体には複数のアザがありました」

この文章を読んだとき、人は最初と最後の文の因果関係を読み取ろうとします。多くの人が「太郎くんの体のアザは、お兄さんとケンカしたときにできたものだ」と解釈するのではないでしょうか。

お兄さんとは殴り合いのケンカをしたわけではなく、口喧嘩だった可能性もあります。体のアザも、殴られてできたものではなく、どこかで転んでできたものかもしれないし、何らかのアレルギーによるものである可能性もあります。しかし、「昨日お兄さんとケンカをした」という情報を見せられると、アザの原因をケンカによるものだと判断したくなってしまいます。

このような傾向を「論理的誤謬」といいます。論理的誤謬の代表例が以下のふたつです。

1.同時に起こったふたつの事象に因果関係があると考える
2.ふたつの事象が続けて起きたとき、先の事象が後の事象の原因であると考える

「ある日、見たことがないような模様の雲が現れて、翌日に大きな地震が起きた」とか「いつもはおとなしい猫が、ある日出かける直前に騒ぎ出した。なだめるのに時間がかかって出かけるのが遅れたのだが、そのおかげで事故に巻き込まれずに済んだ。いつもの時間に出ていれば巻き込まれていたかもしれない」といった話を時折聞くことがあります。

こういった出来事に遭遇すると、どうしてもふたつの事象に因果関係を見出したくなるのが人情というものです。その結果、「あの模様の雲が現れたら地震の前触れ」とか「猫が危険を察知して飼い主を救ってくれた」といった解釈をしてしまいます。

実際は、前に起きた事象と後に起きた事象には因果関係がなく、たまたま続けて起こった可能性の方が高いと考えられます。地震の前には、テレビの調子が悪かったり、いつもより肩が凝ったり、黒猫が横切ったり、普段とは違う事象が他にも発生していたでしょう。我々はそういった事象のほとんどは無視して、一見関係ありそうな事象だけに注目します。そして、たまたま続けて発生しただけのふたつの事象を結び付けてしまうのです。

「筋トレをすると背が伸びなくなる」という話を聞いたことはないでしょうか。私が中学生のとき、バスケ部の顧問の先生も「背が伸びなくなるからあまり筋トレはするなよ」と部員に呼びかけていました。

これも論理的誤謬の一例です。筋トレによって身長が伸びなくなるという科学的根拠はありません。おそらく、ボディビルで活躍している選手は身長が低い傾向があるという事実を見て、そのような誤解をしているのでしょう。

ボディビルやフィジークなど、肉体美を競う競技では身長が低い方が有利です。筋肉量が同じであれば、低身長の選手の方が高身長の選手よりも筋肉が詰まってみえるためです。高身長の選手は、手足などの関節も長いため、筋肉を増やしても体が太く見えにくいのです。

同じ太さの50センチの棒と1メートルの棒があって、どちらも同じ量の粘土で周囲を塗り固めたとき、50センチの棒の方が太くなりますよね。人体も同じ理屈です。身長が低いと、鍛えたときに体が太く見えやすく、高いと太く見えにくい。

日本のボディビルでトップクラスの選手を見ると、だいたい165cm前後です。その事実を見て「筋トレをすると背が伸びなくなる」と結論付けるのは誤りで、「身長が低いと、鍛えたときに体が太く見えやすい」というだけの話です。

CMも論理的誤謬を利用して売上アップを図っています。化粧品のCMでは、きれいなタレントが微笑みを浮かべながら商品を手に取っています。CMを見た人の一部は「このタレントがきれいなのは、この化粧品を使っているから」という因果関係を見出して、商品を買いたくなるという仕組みです。

このとき「出ているタレントはその商品を使わなくてもきれい」「きれいなタレントがプロのメイクやカメラマンの力でさらにきれいに映っている」といった事実は忘れられてしまいます。

ふたつの事象を見ると、すぐに因果関係を見出したくなるのは人の性質のようなもので、そうしないようにするのは難しいでしょう。しかし、直感的に因果関係を見出した後「ちょっと待てよ」と立ち止まって考えることはできます。特に大事な決断をするときは、安易に因果関係を見出していないか考えてみることが大切です。

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