確率がすべてとは限らない

人は常に合理的な意思決定をするわけではありません。むしろ、論理的に考えるとおかしな決断をすることも多いのです。壺から玉を取り出して、赤い玉が出たら勝ちというゲームに参加していると考えてください。

・壺Aには玉が10個入っていて、そのうち1個が赤玉である。
・壺Bには玉が100個入っていて、そのうち8個が赤玉である。

壺Aを選ぶと、勝つ確率は10%です。一方、壺Bは8%です。確率論でいえば、壺Aを選ぶのが合理的です。しかし、実験では被験者の30~40%が壺Bを選びました。勝つ確率が高い壺Aよりも、赤玉がたくさん入っている壺Bを選んだのです。

こういったケースにおいて、人は分母を軽視、あるいは無視する傾向にあるようです。「全体の玉が何個あって、そのうち赤玉は何個」という思考ではなく「全体の玉がたくさんあって、そのうち赤玉は何個」と考えてしまうのではないでしょうか。後者の思考法においては、当たりである赤玉の数が多ければよく、全体の玉の数は意思決定に影響を及ぼしません。

2022年の年末ジャンボ宝くじは、1等の当せん金が7億円、前後賞は1億5千万円で、1等と前後賞合わせて10億円が当たるチャンスがありました。結果として1等は21本出たそうです。

宝くじ公式サイトによると、宝くじの収益金のうち当せん金の支払いに使われるのは約46%です。リターンの期待値は50%もないのです。つまり、宝くじは買えば買うほどお金を失うリスクが大きくなる商品ということになります。

宝くじは数学的には手を出さない方がいいと考えられますが、「1等前後賞合わせて10億円」という現実離れした超高額当せん金や「実際に当選が20本も出ている」という数字に目を奪われて、圧倒的多数である1円も当たらなかった人や、大量に買って300円しか当たらなかった人の数が無視されてしまうようです。

もちろん、純粋な期待値だけではなく、季節のイベントとして、ささやかな楽しみとして宝くじを購入する人も多いでしょうし、そういった人たちを否定するものではありません。

実際の確率を無視する現象は、リスクを評価する際にも発生します。

・この病気にかかると1万人に1286人が死ぬ。
・この病気の死亡率は24.14%である。

上記2つの情報を聞いたとき、多くの人が前者の方が危険な病気だと判断しました。前者の死亡率は12.86%であり、後者の半分であるにもかかわらずです。

・この病気にかかると1万人に1286人が死ぬ。
・この病気にかかると100人に24人が死ぬ。

この場合も、前者の方が危険だと判断されました。「どちらの死亡率が高いでしょう」という数学の問題であれば、正解できる人も多いでしょう。しかし、「どちらが危険だと思いますか」と聞かれると、分母が無視されて、1286と24という分子だけが判断材料となってしまうようです。

この心理をうまく利用することもできます。例えば、裁判で被告を有罪に導く証拠となる鑑定結果が出たとします。その鑑定がエラーである確率は、0.5%であることがわかっています。被告の弁護士は「この鑑定は10000件中50件が誤りといえる」と言えば、裁判官に「鑑定でクロと出たとしても鵜呑みにはできない」と思わせることができるかもしれません。一方で、検察側は「この鑑定が誤っている確率は0.5%である」と言えば、鑑定の正確性を印象付けることができるでしょう。

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