味覚に関する実験という名目で集められた大学生の話です。学生たちは、集合の3時間前から食べ物を口にしないように言われていて、少しお腹を空かせていました。学生たちはおいしそうなクッキーの香りが充満している部屋に連れていかれました。部屋のテーブルには、たっぷりのクッキーなどのお菓子が置かれた皿と、大量のハツカダイコンが置かれた皿がありました。
集められた学生たちに対して、研究者は「これから指示されたものを食べてもらいます。翌日に皆さんに連絡して、味の記憶について質問をする予定です」と伝えました。
学生たちは2つのグループに分けられていました。半数は、クッキーやチョコレートなどのお菓子を食べるように言われています。残りの半数は、いくつかダイコンを食べるように指示されていますが、クッキーは食べてはいけないと言われていました。
指示をした後、研究者たちは部屋を出ます。部屋の中は学生だけです。ダイコンを食べるように指示された学生たちは、そんなものよりクッキーの方が食べたかったことでしょう。研究者がいないので、こっそりクッキーを食べることもできます。しかし、学生たちは全員、指示を守ってダイコンだけを食べました。
ここで味覚の実験はおしまいです。続いて、別の研究者がやってきて、別の実験をおこなうと学生たちに伝えます。学生たちは、大学生と高校生の問題解決能力を比較するという名目で、複雑なパズルに挑戦します。実はこのパズルは、どうやっても解けない、解決不可能な問題でした。研究者は、学生たちがどれくらいの時間でこの不可能なパズルを諦めるか確かめたかったのです。
クッキーを食べた学生たちは、課題に約20分を費やし、34回の試行錯誤を繰り返しました。一方で、ダイコンを食べた学生たちは、課題を8分で諦め、試行錯誤の回数は19回に留まりました。なぜクッキーとダイコンでこれほど明白な差が生まれたのでしょうか。
ダイコン組は、パズルを解く前にクッキーを食べたいという誘惑に耐えていました。これによって、一定の精神力を消耗してしまっていました。そのため、難解なパズルに長く取り組むことができなかったのです。
腕立て伏せをしているところを想像してみてください。最初の数回は、問題なく動作できるかもしれません。しかし動作を繰り返していくと、どこかで「もう1回も腕立て伏せができない」という限界を迎えるはずです。
肉体を酷使すると疲労して動けなくなるように、精神力を消耗すると、精神の疲労によってセルフコントロールできなくなってしまいます。以下のようなとき、人は一定の精神力を消費します。
・難しい問題に取り組むとき
・やりたいことを我慢するとき
・お金を節約しているとき
・感情を抑えているとき
・新しい仕事の手順を覚えるとき
・退屈な会議が終了するのを待ち続けているとき
他にもあげればきりがありません。
困難な問題に取り組むなら、肉体的に疲れていないときがいいのはもちろんですが、精神的にも消耗していないときがいいでしょう。朝から様々なタスクや会議をこなした後、夕方に重要な案件に取り組むのは得策ではありません。午前中の肉体的にも精神的にもフレッシュな状態で取り掛かった方がうまくいく可能性が高まります。
また、上司に高度な判断が求められる決裁を依頼したり、同僚に難易度の高い業務を依頼するときも、同様の理由で午前が望ましいでしょう。午後3時とか4時に依頼しても、相手は精神的な消耗から、よく考えずに断ってくるリスクが高まります。