新しいビジネスアイデアを思いついたとき、それが見込みがあるものなのかどうか確かめるために、顧客の声を聞いてみるという方法があります。スタートアップ企業へのインタビューを基に作成された起業に関する書籍『START UP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(NewsPicsパブリッシング)では、「実は構想段階のアイディアを利用するかどうかについて顧客の声を聞くことに意味はほとんどない」と書かれています。
さらに同書では、「アンケートで8割の人が使いたいと回答した」とか「全員が素晴らしいサービスと答えた」というような調査結果は意味がないし、検証とは言えないと断言しています。そして重要なのは、「実際にプロダクトやサービスを触ってもらえたか、使い続けてくれたか」であると主張しています。
これに関しては、私もその通りだと考えています。というのも、開発前のアイデアについて顧客の声を聞いて、それを根拠に新たなサービスを開発して大失敗した経験があるからです。
当時私は、保育業界の職員の業務をサポートする新サービスを企画していました。「これはいけるかもしれない」という企画をまとめて、保育園や幼稚園を巡ってその企画に対するリアクションを確かめていました。
ヒアリングの結果はまずまずの手応えがありました。多くの顧客(保育施設の職員)が「そのようなサービスがあれば使ってみたい」「興味深いアイデアだと思う」と答えてくれました。それならばということで、必要なハードウェアの購入や、システム開発などそれなりの投資をして、サービスの立ち上げに向かって動き始めました。
約1年の準備期間を経て、いよいよサービスをリリースすることになりました。このサービスは、初期導入費用は無料で、利用が増えると収益が上がる仕組みになっています。導入するだけなら無料ですから、導入顧客数はほぼ見込み通りで推移しました。しかし、思ったほど収益が上がってきません。事前のヒアリングでは「課金があっても使ってみたい」という声が多かったのですが、実際の結果は収益が上がるところまで使ってもらえなかったのです。
家族・知人・取引先などある程度関係性のある人を対象に事前ヒアリングを行っても、一定の配慮が働いて本音で答えてもらえない可能性があります。意識的、あるいは無意識的に、「こう答えたら嬉しいだろうな」と思うような回答をしてしまいます。そうなると、本当は見込みのない商品を「これはいける!」と誤解してしまうかもしれません。
「困ったことがあったら相談してね」と普段から言っている人に、ある日「お金貸してください」と相談したら大抵の場合、便りが途絶えるでしょう。同様に、「そういうサービスがあったら使ってみたいです!」と言ってくれた人に、ある日「月額1000円でそういうサービスを作りました。是非ご利用ください」と売り込みに行っても「まぁ、あのときはそう言ったけどゴニョゴニョ・・・」となってしまうものです。
当時の私に足りなかったのは「実際にプロダクトやサービスを触ってもらえたか、使い続けてくれたか」という検証です。検証に必要な最低限の機能を備えたプロダクトを開発して、本格リリースの前にテストをするというプロセスが不足していました。その新サービスは約1年間稼働した後、圧倒的ぶっちぎりの大赤字をたたき出して撤退することになりました。
世界最大級の旅行コミュニティプラットフォームのAirbnbは、2019年8月10日にAirbnb史上最高の宿泊者数400万人を達成したことを発表しました。この日たった1日だけで、400万人を超えるゲストがAirbnbを通じて宿泊したという意味です。
それだけの規模をもつAirbnbですが、『START UP…』によると、最初は「自分のアパートのたった一室を他人がホテル代わりに予約するか」だけを検証したそうです。「他人のアパートに泊まれる予約システムがあれば使いたいと思いますか」という質問をしたのではなく、実際に予約できるシステムを作ってリリースしたということがポイントです。
Airbnbのように、本格リリースの前に必要最小限のプロダクトをリリースして検証し、その結果を受けて修正を繰り返すことで、最終版のクオリティを高めることができます。
こういった検証は勇気がいるものです。頑張って思いついたアイデアをある程度形にして、それが否定されたら誰だってがっくりきてしまいます。しかし、恐怖を振り払って踏み出すことで、「これはいける」という感触を掴んだり、「ここはこうした方がいいな」と改善点を見出したりできるのです。