2013年から2014年にかけて、台湾で食品の安全性を大きく脅かす不正が発覚ました。黒心油事件、地溝油事件と呼ばれることもあります。黒心油とは汚染で黒く濁った油、地溝油とは排水溝に捨てられた油という意味です。
ある企業では、地溝油を違法な材料で着色し、エキストラバージンオリーブオイルと偽って販売していました。またある企業では、本来廃棄すべき油を食用油として販売していました。その粗悪油を1200もの業者が購入し、数百トン以上の食品の製造に使われたといいます。
なぜこのような違法行為をするのでしょうか。最も大きい動機として、コスト削減ということが挙げられるでしょう。地溝油を使えば、安全な油よりもはるかに安上がりです。しかし、残念なことに地溝油を食品に使うことは許されていません。だから、地溝油を安全な油と偽って販売するわけです。
この事件が発覚する前から、台湾政府は食の安全を守るために、厳重な検査を義務付けていました。しかし、一部の悪徳業者はこの検査をすり抜ける方法を思いつきました。検出されたら検査で失格になるような物質を除去する技術を使ったのです。この技術により、検査対象となる物質は取り除かれました。とはいえ、検査対象外である有害物質はそのままですから、粗悪な油であることに変わりはありません。
検査をすり抜けるための技術を、もっと真っ当なことに使えばいいのにと思ってしまいますね。不正に手を染めた企業にとっては、そこまでやってしまうほどコスト削減に憑りつかれていたのでしょう。
このような違法行為は、企業ぐるみで行われることが多く、外部から発見しづらいのです。そうすると、内部告発に頼るしかありません。実際に、こうした不正事件の多くは内部通報によって発覚してきました。
地溝油事件のような不正には、製造部門を中心に多くの内部の人間が関わります。また、不正会計のような事件においては、財務・経理・その他管理部門などの人間が関わります。「ごく一部の幹部だけが知っている」という状態にすることは不可能です。そこで政府としては、不正を知っている内部の人間のうち誰かが勇気をもって告発できるように、内部告発をするインセンティブを設けます。
アメリカの場合、大規模な不正が起きた場合、所管の当局が企業に巨額の罰金を科します。そのうえで、罰金の数割を内部告発者に報奨金として分配する制度があります。
2015年、当時エアバッグ等の自動車用安全部品大手のタカタは、適切なリコールや情報開示を実施せずにアメリカ国内で被害を拡大したとして、アメリカ運輸省国家道路交通安全局から、当時のレートで200億円を超える制裁金を科されることになりました。
タカタのリコール問題に関しては、同社の元従業員の通報や、捜査協力が大きな役割を果たしました。元従業員は、制裁金の一部を報奨金として受け取り、その金額は当時のレートで1億円を超えるものでした。
また、アメリカでは厳格な通報者保護制度が確立されています。通報者の名前を伏せるということはもちろん、場合によっては改名までさせて通報者を保護しています。
通報者の安全が保護されて、さらに巨額な報奨金が期待できることで、内部の人間は不正を告発しやすくなります。内部告発をした結果、自分が勤める企業の評判が落ちる可能性は当然あります。自尊心が失われたり、給与が大幅に下がったり、企業そのものが消滅することもあるでしょう。そうしたリスクを承知のうえで告発してもらうためには、リスクを大幅に上回る金銭的なメリットを提示する必要があるでしょう。
日本では公益通報者保護法という法律で、内部告発をおこなった労働者が保護されています。同法によると、公益のための通報をおこなった労働者に対して、企業は解雇・減給・降格等の不利益となる処分はしてはならないとされています。
同法では通報者の保護について定められていますが、報奨金等に関しては言及されていません。上に挙げた通報者のリスクを考えると、不正を明るみにするためには金銭的なインセンティブも検討した方がいいのかもしれません。