なにがなんでも再発防止

組織で不祥事が起きると、再発防止策が講じられることがあります。特に、規模が大きい組織や、役所などの公的な組織においてはその傾向が顕著です。また、監督官庁や発言力が強い元請けが、不祥事を起こした組織に再発防止策の立案を命じることもあります。

再発防止策を立てること自体は悪いことではありません。根本的な原因を分析して、同様の事態が起こらないようにできれば、組織にとっては大きなメリットになります。ただし、あらゆる不祥事に対して再発防止策を講じるのは得策とは言えません。

そもそも再発防止策を立てようがないケースが存在します。例えば、警察官が犯罪者データを持ち出したという不祥事があったとします。この場合は、データの持ち出しに関して物理的な制限を加えることによって、再発を防ぐことができるかもしれません。

では、警察官が万引きで捕まった場合はどうでしょう。これは個人の資質による部分が大きく、対策のとりようがない気がします。「万引きはだめですよ」という講習会を開いたところで、やらない人は最初からやらないし、やる人はやるでしょう。

とはいえ、「こんなもの対策のとりようがないので特に再発防止策は考えておりません。本人を処罰して終わりです」と言えないのがつらいところです。それでは世間が許してくれないでしょう。結局、「定期的にコンプライアンス研修を実施し、職員の意識を高める」といったアリバイ的な対策がとられ、職員の時間が奪われることになります。

部分的には有効かもしれないが、デメリットも大きい再発防止策もあります。ある大学では、教職員のカラ出張が問題になっていました。実際には行っていないのに、出張に行ったことにして出張費を不正にせしめる行為です。

これを防ぐために、大学は「第三者に証明書にサインしてもらう」という方法を考えました。「この人は〇時から〇時まで学会や会議等に参加しました」という書類にサインしてもらうのです。証明書を偽造するなどの抜け道はあるものの、出張費の精算に証明書が必須となるというだけで一定の抑止効果はあるでしょう。

一方で、この対策にはデメリットもあります。証明書のサインを頼まれた人は、大学に対して「よほど不正がはびこっているのか?」「ここまでやるか?」といった印象を抱くかもしれません。サインを依頼する教職員も、「恥ずかしい」「大学に信頼されていない」と感じるでしょう。

どんな対策であっても、メリットと同時にデメリットはあります。デメリットが上回るような再発防止策であれば、練り直してみる必要があります。

ひとつひとつの再発防止策は有効でも、複数の防止策を同時に使うことでうまくいかなくなることもあります。私が以前勤務していた会社では、製品に関するコールセンターを外部に委託していました。当初の対応マニュアルはシンプルなものでした。しかし、トラブルが発生するたびに再発防止策が盛り込まれ、マニュアルはどんどん複雑になっていきました。

それぞれの再発防止策自体は、有効な内容だったと思います。ただ、全体の整合性を検討せずに、トラブルのたびにマニュアルが改編されたため、ユーザー(問い合わせをした人)にとって不便なものになってしまいました。

ほとんどのユーザーは、最初のシンプルなマニュアルで対応可能なのに、再発防止策てんこ盛りのマニュアルに沿った対応をされるために不要な質問に答えたり、不要な説明を聞かされることになったのです。

低確率で発生するトラブルを回避するために、大多数のユーザーが不利益を被っている状況でした。本来ならどこかでマニュアルのシンプル化を検討すべきだったのですが、当時は「再発防止策を講じよ」という上からの圧力もあってそこまで考える余裕はなかったですね。

何か不祥事や問題が発生したときに、脊髄反射で「再発防止を!」と考えるのではなく、「再発防止策を考える価値がある問題なのか?」ということから考えられるようになると、本当に組織にとって有効な意思決定ができるかもしれません。

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