稼ぐ人は相対的に時間が足りなくなるのか

人はお金を稼げば稼ぐほど、時間がないと感じる傾向があるようです。1日の労働時間が同じでも、安月給の平社員と高給を稼ぐ役員では、後者の方が時間がないと感じやすいということです。その理由は、需要と供給の関係によって説明でします。

かつて卵は10個入り1パック200円前後で売られていましたが、2023年5月現在では安いところで250円程度、300円以上する場合もあります。これは、鳥インフルエンザや物価高騰など複数の要因によって、卵の供給が需要に対して不足していることが原因です。

現在、30枚入りのマスクは100円程度で売られていますが、3年前の今頃は50枚入りで3~5千円の価格が付けられていました。マスクの性能はほぼ変わっていません。しかし、需要に対してマスクの供給が極端に少なかったので、価格が吊り上げられたのです。供給が不足すると、価格が上がるというのが経済の原則です。

逆に、価格が高いということは対象物の供給が不足している、希少であるという考え方もできます。この考え方によって、高給を稼ぐようになった人は、給与が低かった頃と比較して、自分の時間の供給が不足している、時間が足りないと感じるのです。

トロント大学のデヴォー教授は、時給によって時間の感じ方が変わることを実験で示しました。この実験では、被験者はある作業を行います。被験者の半分には、その作業が時給9ドルと思わせます。残りの半分には、時給90ドルと思わせます。作業の内容は全員共通です。

作業終了後、被験者にどれくらい時間的なプレッシャーを感じたか質問しました。全員作業の内容や与えられた時間は同じでしたが、時給90ドルと思わせたグループの方が時間に対して強いプレッシャーを感じていたのです。

デヴォーは別の実験で、大学生に貯金額を尋ねました。選択肢の中から、自分の貯金額として当てはまるものを選ぶというものです。ここでも、被験者は半数ずつのグループに分けられました。2つのグループでは、選択肢の内容が異なります。実際の実験での選択肢とは異なりますが、下記のようなイメージです。

【あなたの貯金額について、当てはまるものを選択肢から選んでください】
グループAの選択肢 (1)0~1万円 (2)1万~5万円 (3)5万~10万円 (4)10万円以上
グループBの選択肢 (1)0~50万円 (2)50円~100万円 (3)100万~200万円 (4)200万円以上

同じ貯金額でも、グループAの学生は上の方の選択肢を選び、グループBでは下の方の選択肢を選ぶことになります。グループAの学生は、グループBと比べて「お金を持っている」という感覚に陥ります。

貯金額に変化があったわけではなく、選択肢の中での相対的な位置が変わっただけです。しかし、学生の時間に対する感覚に影響を及ぼすには十分な変化でした。

貯金額を答えた後、学生たちは文章を読む作業に取り掛かかりました。グループAの学生は、グループBと比べて文章を読むスピードが速くなりました。「自分が相対的に金を持っている」という気持ちを抱いただけで、時間が貴重だと思うようになり、読む作業にかける時間が短くなったのです。

常に忙しく、時間に追われていると感じている人は、もちろん本当に忙しいということもあるでしょう。しかし、上に挙げたような錯覚により、実際よりも過度に時間が足りないと見積もっている可能性はないか、立ち止まって考えてみてもいいでしょう。

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