多くのケースにおいて、販売員と客の間には商品知識の質と量に大きな差があります。販売員はそのギャップに付け込んで、不当に高い商品や難がある商品を客に売りつけることが可能です。そのような悪意がある販売員から身を守るために、客が取りうる対抗策はあるでしょうか。
アメリカ、ウォートンスクールの研究者、ジュリー・A・ミンソンらは、核心を突く質問によって、得られる情報の質が改善することを実験によって証明しました。
被験者たちは、iPodの販売員となって販売交渉のロールプレイを行いました。販売員役のメンバーは、売り込みをするiPodに関する情報を前もって知らされていました。製品は比較的新しく、おしゃれなカバーが付いています。しかし、過去に2回フリーズして、その際はリセットして全データを消去しなければならなかったというトラブルがありました。
研究者が知りたかったのは、どうすれば販売員がフリーズの問題を顧客に白状するかということでした。顧客役は質問内容をあらかじめ研究者から指示されていました。質問内容と、販売員が問題点を明かした割合は以下の通りです。
【質問1】「商品について説明をお願いします」
→この質問で問題を明かした販売員は8%
【質問2】「何も問題はないですよね?」
→この質問で問題を明かした販売員は61%
【質問3】「このiPodの問題点は何ですか」
→この質問で問題を明かした販売員は89%
【質問3】のような核心を突く質問は、販売員に「この客・・・できる!」とか「この客にごまかしは通用しそうにないぞ」と思わせることができます。iPodに限らず、何かを売り込もうとする担当者に「この商品の問題点は何でしょうか」と質問してみましょう。高値でガラクタをつかまされるリスクを軽減できるかもしれません。
核心を突く質問は、相手から正しい情報を引き出す効果があります。あなたと組織内で競い合っているライバルがいるとします。あるとき、第三者がライバルの不利になる情報を伝えてきました。これはチャンスとばかりにすぐ行動に移る前に、リークしてきた第三者に質問してみましょう。「どうしてそれを私に話そうと思ったんです?」
もしそのリークが、あなたの勇み足を誘うためのデマだったとしたら、情報を伝えてきた第三者は何らかの反応を見せるはずです。「それはどこから得た情報ですか」という質問も有効でしょう。悪意を持っている相手がこうした質問をされると「何か企んでいるようですがお見通しですよ」と言われているような気持になります。
核心を突く質問は、質問する側とされる側にある情報や立場のギャップを埋めるための手段です。はじめから質問する側が優位な立場にある場合、核心を突く質問は逆効果になる場合があります。
例えば医者と患者の関係を考えてみましょう。治療の際、医者は知識、立場とも患者よりも優位にあります。医者は患者の話を聞きながら、病状について仮説を立てます。仮説を立てるのはいいのですが、その仮説に基づいて患者の答えを誘導してしまうのは避けるべきです。
ある患者が腹痛を訴えて病院に行きました。医師は患者の話を少し聞いて、患者の病名について仮説を立てます。その仮説に基づいて、患者のみぞおちあたりを指しながら「ここも痛みがありますか」と質問します。
患者は医師からそのように問われると、「ええ、痛みますね・・・」と答えざるを得ません。その後も医師は、仮説に沿った質問を続けます。患者は空気を読んで、仮説を裏付けるような回答を繰り返します。最初の仮説が合っていればよいのですが、間違っていたら誤診という結果に終わります。
私も似たような経験があります。歯科医院で治療中、2本の歯に刺激が与えられて「どちらが痛みますか」と質問されました。これまでの流れから「後者の方が痛い」という答えを期待していることが読み取れました。しかし、実際の感覚では前者の方が痛かったのです。「前者の方が痛い」と勇気をもって答えると、担当医は首をかしげていました。空気を読んで期待される回答をしていたら、誤った治療が施されていたかもしれません。
質問者の方が上の立場にある際は、忖度なしの正しい情報が得られるように質問方法に工夫が必要です。まず「こうですよね」といった質問方法は避けるべきです。立場が弱い者はYESと答えざるを得なくなります。
また、「どこに問題がありますか」といった質問をする際も、回答者が「問題があるはずだよね」と迫られていると思わせないように、言い方を工夫する必要があります。質問文を「あなたから見て問題がありそうですか」と変えてもいいかもしれません。
ここまでの話をまとめましょう。参考になれば幸いです。
情報量や立場が【質問者<回答者】であるとき
核心を突く質問によって、回答者に「私にごまかしは通用しませんよ」というメッセージを与える。その結果、回答者は隠している情報をオープンにする。
情報量や立場が【質問者>回答者】であるとき
なるべくオープンな質問で、回答者に対して特定の答えを求めていると思わせないようにする。言い方も工夫する。その結果、正しい情報を得られるようになる。