高級ワインの品質がピークに達するには何年か熟成させる必要があります。同じブドウ園から生産されたワインでも、品質によって価格が大幅に変わります。そういった性質から、高級ワインは投資の対象にもなり得ます。将来値上がりしそうと見込んだワインを大量に買い付ける投資家もいます。
経済学者のオーリー・アッシェンフェルターはワインの価格予想をする計算式を編み出しました。ワインの品質には、気象条件が関係していると考えられています。そこで、アッシェンフェルターは「前年の冬の降雨量」「生長期の平均気温」「収穫期の降雨量」のデータをもとに、将来のワインの価格を予想する計算式を編み出しました。
一般的に、植物の生長には気候以外にも多くの要素が関わっていると考えられます。気候に関するたった3つの変数を組み込んだだけで、ワインの価格を正確に予想できるものなのでしょうか。
答えは「YES」でした。アッシェンフェルターの計算式はかなり正確に価格を予想できていたのです。予想価格と実際の価格の相関係数は0.9を上回っていました(相関係数は1に近いほど相関度が高く、0.9はかなり高い数値です)。一方で、出荷されたワインの将来価格を従来から予想してきたワイン専門家は、計算式よりもはるかに低い相関係数を示しました。
心理学者のポール・ミールは、多くの分野において専門家の予想よりも、単純な計算式による予想の方が正確だと語ります。様々な実験において、計算式VS専門家の戦いは計算式の圧勝という結果が60%でした。そして40%は引き分けでした。
なぜ専門家が単純な計算式に負けてしまうのか、ミールはこのような仮説を考えました。専門家は賢く見せたいがために独創的なことを思いついて、それをもとに予想しているのではないか、というものです。
確かにそういった要因は否めないでしょう。ワインの専門家が「今年の〇〇ブドウ園のワインは価格が上がりそうですか」と聞かれて、「前年の冬にたくさん雨が降って、夏は気温が上がり、収穫期は雨が少なかったので価格はこれくらいになるでしょう」というフォーマット一辺倒で予想を答えたら、聞いた人はどう考えるでしょうか。「誰でも思いつく予想しかしないんだな」と思うのではないでしょうか。
そこで専門家は、「ここのブドウ園は4年に1回大当たりのワインが生まれていて、今年はちょうどその年に当たる」とか「このブドウ園は最新の製法を試していてその効果が期待できる」といった、ちょっと通っぽく聞こえる予想を言ってしまうのです。そういった通っぽい変数は実際の影響力は少なく、結局3つの気候変数の方がはるかに影響力が強いというわけです。
専門家は、どんな場合でも影響力が高い主要な変数だけをもとに予想し続ければ、他のライバルよりも高い的中率を誇ることができるでしょう。しかしそんなことをする専門家は見たことがありません。それでは仕事が来ないからでしょう。
株価予想にせよ競馬の予想にせよ、その人独自の切り口が専門家の個性になります。素人でも思いつくような根拠ではなく、「そこに注目するのか!」「そんな情報を知っているのか!」と驚かれるような根拠をもとに予想しないと、人気の専門家にはなれません。しかし、独自の切り口を追求すればするほど、的中率が下がっていくのは皮肉な現象です。