マルチタスクを防ぐ方法

複数の作業を並行して進めることを「マルチタスク」といいます。現代では「できる人」はマルチタスクが得意というイメージがあります。しかし、集中力が必要な場面ではマルチタスクをおこなうべきではありません。

厳密に考えると、私たちは2つの作業でさえ同時に進められない場合がほとんどなのです。Aさんは会議に参加しながら、2時間後に控えている別の会議の資料を作りつつ、メールに目を通して返事をしています。このときのAさんの様子を実況してみます。

会議が始まったが、2時間後の別の会議の資料ができていないため、手元に現在の会議資料を開きつつパソコンで次の会議資料を作成中。「〇ページを開いてください」という声が聞こえたら手元の資料のページをめくって、自分の資料作成に戻る。「Aさん、これについてはいかがですか」と聞かれたので、手元の資料となんとなく聞こえていた内容をつぎはぎしてコメントを絞り出す。その後また自分の資料作成に戻る。パソコンのポップアップで「Aさんへ:至急・・・」というメールの件名が表示された。本文に目を通してこの場で返信が必要と判断。回答に必要な情報をまとめてメールを返信。再度自分の資料作成に戻る。また「Aさんはどう思いますか」と聞かれたので作業中断・・・

このとき、Aさんは会議と資料作成とメール閲覧とメール返信という4つの作業を同時に進めているわけではありません。作業内容を細かく切り替えているだけです。作業を切り替えたとき、先にやっていた作業は、走行中の車が急停止してエンジンを切られたような状態です。再び走り出すにはまたエンジンをかけ直して0から加速しなければなりません。マルチタスクには効率が悪い側面があるのです。

カイザー・サウスサンフランシスコ病院では、病院全体で看護師が1日に約800回薬剤を投与します。看護師は、医師が書いた処方箋を読んで薬局に注文します。薬剤が薬局から届くと、看護師は定められたタイミング・方法・分量で患者に投与します。

看護師の作業は正確で、1000回の投薬で平均1回しかミスをしません。しかし、この病院では1日約800回の投薬があるため、年間に約250回の投薬ミスが発生してしまいます。そして投薬ミスは患者の体に重大な影響を及ぼしたり、ときには死に直結したりすることもあります。

この病院で臨床サービスの責任者だったベッキー・リチャーズは、どうにかして投薬ミスを減らそうと画策しました。リチャーズは、看護師の集中力が切れているときにミスが起きると考えました。

たいていの場合、投薬は集中しづらい環境でおこなわれます。投薬中やその前後で医師・看護師・患者等に声をかけられたり、周りがバタバタしていたりすることが多いでしょう。特に看護師は医師から話しかけられた際に、「すみません、投薬中なので後にしてください」とはなかなか言えません。しかし、他のことに気を取られたとき、人は集中力を失いミスを起こしやすくなります。

手術は手術室でおこなわれます。そこでは手術以外の気を散らされる要因は排除されていて、手術スタッフは手術のことだけに集中できます。同様に投薬スペースというものがあって、そこで投薬だけに集中して作業できればよいのですが、実現は難しいでしょう。

そこでリチャーズは「投薬中は目立つベストを着る」というアイデアを思いつきました。このベストを着ている看護師を見たら、周りのスタッフは「話しかけない」「静かにする」といった協力をしてもらおうという狙いです。

リチャーズは2つの病棟で、ベスト着用のテスト運用を始めました。ベストは不評でした。看護師は「劣等生と公言しているような気分だ」と感じ、医師もベストを着た看護師に話しかけられないことを不満に思っていました。

スタッフにはベストは不評でしたが、結果はめざましいものでした。半年の試験期間で、ミスの発生率が約47%も減少したのです。この結果を見て、不満を持っていた人たちも本格導入に同意せざるを得ませんでした。

本当に集中したいときは、マルチタスクを断ち切ってその作業だけに専念すべきです。先の病院の例では、そのためのツールにベストが使われました。ただしこの作戦を成功させるためには、作業の当事者だけでなく周囲の理解も必要になります。

例えば、あなたが会社員で何かのPC作業に集中したいのであれば、それに関連するウィンドウ以外はすべて閉じておくというのもひとつの方法です。メールやチャットなどはすべて閉じて、ポップアップ通知もブロックしておきます。社内ルールで可能なのであれば、オフィスから離れたカフェなどに移動して、他の社員から話しかけられない状況を作れればなおよいでしょう。

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