一段階上のレベルで考えてみる

「速く泳げる水着をデザインせよ」という指示を受けたら、あなたはどのようなアプローチを取るでしょうか。デザイナーのフィオナ・フェアハーストは「速いものや速さを生み出す仕組みをひとつ残らず調べる」という方法をとりました。フィオナの1997年にスピード社に雇われて、高速で泳げる水着をデザインするという任務を与えられました。

フィオナは、船・魚雷・スペースシャトル・マグロなど速く移動するものを調べ始めました。「魚雷と人間は違う。魚雷のことを調べても人間が速く泳げる水着は作れない」と思う人もいるかもしれません。しかしフィオナは粘り強くこのアプローチを継続しました。

ある日フィオナは、大映自然博物館におもむき、特別な許可を取ってサメに触らせてもらいました。サメの鼻は刃物のようにザラザラしていしました。鼻から尾びれに向かって手を動かすと、非常に滑らかなのですが、逆方向に動かすと手が切れそうなほどギザギザしていました。

サメの皮を詳細に分析したフィオナは、サメの皮に備わったキメの粗さが速さの源ではないかと考えました。直感的に考えると、ツルツルした素材の方が水の抵抗を減らして、速く泳げるような気がします。しかし実際は、サメの皮のような粗さが抵抗を減らして推進力を増加させるのでした。

さらにフィオナは、魚雷にヒントを得て新しい水着をデザインしました。それまでの水着は露出が多いものでした。一方でフィオナがデザインした水着は、体の大部分をぴっちりと覆っていました。この水着の狙いは、体のでっぱりや膨らみを押さえつけることでした。そうすることで、水中を進むときに魚雷のような形を保つことができるのです。

新しい水着が完成した後、選手に試着してもらいました。選手の感想は「着心地が悪い」と漏らしました。しかしその水着で泳いだとき、世界記録のペースに近いタイムが出たのです。しかも、試着ということで軽く流して泳いだにもかかわらずです。世界を席巻したスピード社の水着の効果が明らかになった瞬間でした。

参考画像:スピード社の競泳水着

スピード社の水着は効果抜群でした。抜群過ぎたといえます。この水着を着た選手たちはどんどんタイムを縮め続けました。あまりに効果があるので国際水泳連盟は2010年から一部の素材や肩を禁止せざるを得ませんでした。

フィオナが新しい水着を開発するまでは、競泳水着は「いかに水着の面積を少なくするか」「いかに水着の素材を滑らかにするか」という観点で開発が続けられていました。フィオナの水着は体をおおう面積が大きく、ザラザラの素材で、これまでとはまったく逆のアプローチでした。

フィオナがこのアプローチに至るまでの過程がポイントです。他のデザイナーは「速い水着」を追及していました。一方で、フィオナは「速く移動できるもの」に注目しました。調べてみて、水着には応用できないものも数多くあったでしょう。それでも粘り強く調べ続けることで、「速く移動できるもの」で、水着に応用できるものを発見したのです。

クリエイティブな仕事で行き詰ったとき、今目の前で直面している課題ではなく、もう一段階上の課題を考えてみましょう。そうすると、それまで思いつかなかった斬新な解決法を思いつくかもしれません。

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