RJPという予防接種

あるコールセンターの責任者は、スタッフの離職率の高さに悩んでいました。人を新しく雇うとき、求人費用や採用に関わる社内リソース費用、採用後の研修など一定のコストがかかります。そこまでして雇ったスタッフが数か月でやめてしまったら企業にとっては大損失です。離職率を改善するため、責任者はRJPという手法を取り入れることにしました。

RJPとはRealistic Job Previewの略で、日本語では「現実的な職務内容の事前開示」といった意味合いです。そのコールセンターでは、RJPの一環として応募者に様々な生々しい情報を開示しました。

例えば、要求が厳しい顧客や感情的になってオペレーターを責める顧客とのやり取りを記録した音声を聞かせます。また、顧客対応やその記録のために複数の業務アプリを使いこなす必要があることや、オフィス内での禁止事項、残業や休日出勤の可能性などについても説明します。

一般的な採用プロセスでは、ここまで具体的に職務内容が提示されることはないでしょう。せいぜい「いろいろなツールがありますが、まあ徐々に慣れていってください」くらいのことを伝える程度だと思います。

採用前にこんな赤裸々な情報を開示しても問題ないのでしょうか。実は、数多くの研究でRJPは離職率の減少に効果があると証明されています。RJPを導入したこのコールセンターでは、離職率が減ったことによって1年間で新規採用者を10%以上減らすことができ、大きなコスト削減となりました。

スーパーの店員、看護師、生命保険の営業など様々な職業において、RJPを導入することによって離職率が減少したという研究もあります。その理由はなんだと思いますか。

研究者のジーン・フィリップスによると、RJPには「予防接種」の効果があるといいます。実際に働く前に、ちょっとだけ会社の実情を知ってもらい、採用後に「思ってたのと違う!」と失望しないようにしているのです。

RJPを受けていない新人がきついクレーマーに当たると、「こんな大変だとは聞いてない。やめようかな・・・」と思ってしまうかもしれません。一方で、RJPを受けた新人であれば、事前に予防接種を受けているので受け入れることができます。

RJPを受けることで、怖気づいて辞退する応募者が出てくるのではという疑問が湧いてくるかもしれません。しかしそれは無用な心配です。フィリップスの研究によると、RJPを受けたグループと受けていないグループで、採用途中で辞退する率はほぼ変わらなかったのです。

RJPには予防接種だけでなく、予行演習の効果もあります。スーパーの応募者に「これだけの量の商品をx時間以内に陳列する必要があります」と伝えたとします。応募者は就業後の現実を認識すると同時に、「自分ならどうやって作業するだろう」とシミュレーションするでしょう。それが実際の勤務でも役に立ちます。学校の授業でいえば予習のようなものです。授業の前にその日やる予定の教科書のページをさっと目を通すだけでも、完全に準備なしのときと比べれば理解度は向上するでしょう。

RJPは採用プロセス以外の様々な状況でも活用できます。仕事で未経験の業務に挑戦するときは、その業務やそれに似た業務を経験した人に、詳細を教えてもらいましょう。

経験者から情報を引き出すときは、「〇〇さんはこれを経験してると思うんですけど、どうでした?」といった漠然とした聞き方は避けるべきです。こういう聞き方をすると、その人の成功談や「こうするといいよ」といったアドバイスだけで終わりがちです。しかしそれは、採用プロセスで採用担当者が聞こえがいい話しかしないのと同じです。

「どんな点に苦労しましたか」「失敗したことはありますか」といった聞きづらいことも聞いてみましょう。そういった赤裸々な情報があなたにとってのRJPとなり、実際にあなたが物事にあたるときの手助けになるはずです。

ネガティブな情報もふくめてありのままを開示するのは勇気がいることです。しかし、それがいい結果につながるということはデータが示しています。勇気をもってRJPを活用してみてはいかがでしょうか。

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