医療の現場で「患者様」という呼び方を見直す動きが広まっています。「患者様」でgoogle検索すると、「『患者様』という呼称を『患者さん』に統一します」という病院からのメッセージをいくつか確認することができます。
医療現場で「患者様」という言葉が普及したのは、約20年前の厚生労働省からの通達がきっかけというのが通説です。厚労省による「国立病院・診療所における医療サービスの向上に関する指針」において、「患者の呼称の際、原則として姓名に『様』を付けることが望ましい」という通達があったのです。
この通達は「姓名に『様』を付ける」と言っています。患者個人を呼ぶときに、「鈴木さん」ではなく「鈴木様」とするのが望ましいということです。それが拡大解釈されて、「患者」という一般名詞にも様を付けるようになったようです。
そのようにして広まった「患者様」という呼称を「患者さん」に変更するのはなぜなのでしょうか。複数の病院が出している変更のお知らせを見ると、言い回しは違えど理由はどの病院もほぼ同じようです。
理由のひとつは、日本語としておかしいということです。「様」というのは尊敬語です。尊敬語は、通常ネガティブな内容とはセットで使わないものです。「刑務所にお入りになっていかがでしたか」とか「就活全落ちなさったそうですね」といった表現に敬意は感じないですよね。「あれ、ひょっとしていじってます?」と相手から思われそうです。
相手に敬意を感じているのであれば、そもそもそういったネガティブな話題を出してはいけないのです。もしインタビューなどで、どうしても触れざるを得ない場合は無理に敬語を使わずに「言いにくいかもしれませんが、刑務所に入ったときの話について・・・」といった話し方をするのがベターでしょう。
「患者」というのは「患った者」というネガティブな意味の言葉ですから、そこに「様」を付けるのは敬語として成立していないと言えるでしょう。
ふたつめの理由は、患者と医療従事者の関係にあります。かつては医療従事者、特に医師の権威が絶大でした。そこで、患者の権利がないがしろにされないように、いろいろな取り組みがおこなわれました。「様」を付けるのもその取り組みの一環だったのでしょうが、逆に患者を過剰に尊重しすぎる結果になったかもしれません。
本来、患者と医療従事者は対等な関係であるべきという考えのもとで、「患者様」を「患者さん」に変更するというわけです。この考えに基づいて、個人を呼ぶときも「鈴木様」ではなく「鈴木さん」に変更する病院も多くなっています。
最後の理由は、患者自身が「様」呼びを希望していないということです。平成19年西日本新聞の患者向けアンケートによると、「患者さん」で十分という意見が7割を占めていました。それはそうだとうと思います。「患者さん」「鈴木さん」と呼ばれて、「失礼じゃないか。『患者様』『鈴木様』と呼べ!」と思う人なんてそんなにいないですよね。
私個人としても、病院で「様」で呼ばれるのは丁寧すぎてよそよそしいと感じます。「さん」付けくらいが適度な距離感でしょう。
これくらいの変更は黙ってやっても問題ないと思うのですが、わざわざ病院のサイトで掲示するというのが今の世相を表しているなと思いました。