革新的なアイデアとそれを評価する人

1922年、アメリカのペンシルベニア州で生まれたデビッド・ブルームという発明家がいます。ブルームはおもちゃメーカーの製品開発部門責任者として、多くのヒット商品を生み出しました。その後彼は鞄メーカーに転職して開発責任者となりました。

ブルームは従来のスーツケースに対して、重たくて扱いにくいという不満をもっていました。そこで、車輪をつけるというアイデアを思いつきました。当時の人たちは、何日分もの物資が詰まった重いスーツケースを車輪なしで運んでいたのです。

ブルームはスーツケースにキャスターとハンドルを付けた試作品を作って会長にプレゼンしました。会長はこの試作品を「誰が車輪付きのスーツケースなんてほしがるんだ?」と酷評しました。結果、この商品が日の目を見ることはありませんでした。

ブルームのアイデアが一蹴された10数年後、1972年にバーナード・サドウがキャスター付きスーツケースの特許を取得しました。サドウは空港で重たいスーツケースを運んでいるときに、キャスターを付けるアイデアを思いつきました。

ところが、当初サドウの案も受け入れられませんでした。大手の百貨店にキャスター付きスーツケースを売り込んだのですが、軒並み断られたのです。当時、家族の荷物が詰め込まれた重いスーツケースを運ぶのは男の仕事で、夫が妻の分のスーツケースを持ってあげるのが男らしいと思われていたのです。

サドウのキャスター付きスーツケースは、ある百貨店の目に留まり、そこで販売されることになりました。販売するやいなや、飛ぶように売れたそうです。

この話からふたつ教訓が得られます。ひとつは、新しいアイデアの多くは既存のものの組み合わせから生まれるということです。当時、スーツケースも車輪も珍しいものではありませんでしたが、車輪付きスーツケースは大ヒットし、今では旅行に欠かせないものになりました。ありふれたものでも、それらをうまく組み合わせることで革新的なものを作れるということです。

もうひとつの教訓は、既成概念にとらわれると、革新的なアイデアを無価値なものとみなしてしまうということです。「スーツケースは重たいに決まってるだろう」という既成概念にとらわれた鞄会社の会長は、ブルームの革新的なアイデアを一笑に付しました。ビジネスの世界において、このような例は枚挙に暇がありません。

2000年ごろ、アメリカ最古の名門ベンチャーキャピタル、ベッセマーの投資家は、スタンフォード大学出身の友人から、インターネットの検索エンジンを開発している企業の創業者らを紹介したいと声をかけられていました。投資家は、検索エンジンに興味がわかず、創業者らに会うことを避け続けました。その創業者ら作った会社の名前はgoogle。ベッセマーはあまりにも巨大な魚を逃がしてしまいました。

後から「なぜみすみすチャンスを逃すのか」というのは簡単です。しかし、目の前に革新的な商品や事業があるとき、既成概念を取り払って冷静に価値を見極めるのは本当に難しいものなのです。

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