何十年も前の話になりますが、かつて「ワールド」と表記された看板がたくさん首都高から見ることができました。「ワールド」というたった4文字です。非常にシンプルです。調べてみると、ワールドファイナンスという消費者金融の看板だったようです。しかし、「ワールド」という単語が普遍的過ぎて、それだけだと何をアピールしている看板なのかわかりにくいですよね。「世界がどうしたんですか」って聞きたくなります。
ワールドファイナンスは、別会社であるワールド(タケオキクチなど多くのブランドを擁するアパレル会社)と営業表示訴訟を争っていました。最終的にワールドファイナンスは、「ワールド」、「世界のワールド」の営業表示を使用してはならないという判決が下されました。確かにアパレルのワールドからすれば、消費者金融と混同されるのは本意ではなかったでしょう。
その後、「ワールド」という看板には「ファイナンス」という言葉が小さく書き加えられました。ワールドの4文字のみだったときの「何コレ?」感は失われて、普通の消費者金融の看板になってしまいました。現在は廃業しているようです。
2020年代の現在、首都高で目を引く看板といえば「きぬた歯科」です。「きぬた歯科 インプラント」というシンプルなメッセージに、院長のバストアップ写真というレイアウトで、首都高はじめ様々なところで見かけます。ネットで「きぬた歯科 看板」で検索すればたくさんの看板写真を見ることができます。
看板に人を載せる場合、有名人を起用して訴求効果を狙うのがセオリーです。しかし、きぬた歯科はあえて院長自身が広告塔になっています。見た人は「いたるところで見かけるこのおじさん誰?」と思うことでしょう。それこそが院長の狙いなんだそうです。
きぬた歯科は西八王子にあるのですが、看板は新宿・渋谷といった都内の繁華街から、山梨や埼玉といった他県まで掲示されています。歯科医院というのは地域依存度が高い業態です。大半の人は自宅近くや職場近くなど通いやすい歯医者を選びます。わざわざ遠くの歯医者に通う人もいないわけではないですが、その理由は「評判がいい」とか「腕が確かだ」といったことでしょう。「地元の埼玉で看板を見たのでわざわざ西八王子のきぬた歯科に来た」という人は相当レアなんじゃないでしょうか。
院長は看板に年間2億かけているそうです。開業歯科医の平均年収は1000万円以上あるらしいですが、平均年収くらいだととても看板に億かけることはできません。きぬた歯科は平均的な歯科医よりもはるかに繁盛しているのでしょうか。そもそも院長は患者を呼び込むためだけに看板を出しているわけではないそうです。看板を設置すること自体が趣味のようなものとのことです。