時間術はビジネス書の中でも定番のテーマです。たいていの時間術に関する本では「限られた時間の中でいかにして効率的にタスクをこなすか」について解説されています。よく提唱されるテクニックとしては、「早朝の時間帯を活用する」「to doリストを作る」「タスクを優先度、緊急度で分類する」といったものがあります。私も数多くの時間術の本を読んで、これらのテクニックを自己流でカスタマイズして利用していました。
そういった従来の時間術の本とは一線を画しているのが『限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン著)です。バークマンは、効率的にタスクをこなし続けることに果たして意味があるのかという疑問を投げかけています。
ある組織ではひとりが1日で10のタスクをこなすのが普通であるとしましょう。ここで、あなたがテクニックを駆使して1日で15のタスクをこなせるようになったとします。そうすると、「あの人は仕事が速い」と評判になり、さらに多くのタスクが舞い込むようになります。最終的にあなたは能力の限界までタスクを抱えることになります。効率的にタスクを処理できるようになっても、それによって余った時間には新しいタスクが入るというわけです。
バークマンは「もっと効率的にやれば忙しさから逃れられる」という希望を捨てようと主張します。どんなに効率的にやっても忙しさは終わらないというわけです。そんな状況の中で、心の自由を手に入れるために「全部できる」と思わずに一握りの重要なことに集中すべきだとバークマンは提唱しています。目の前のタスクをいかに効率的に処理するか、ではなく、人生において重要なことだけに集中するためにタスクを減らそうというのが、他の時間術の本とは大きく異なる点です。
『限りある時間の使い方』では、タスクを減らす方法がいくつか紹介されています。そのなかで最も実践しやすそうだと思ったのが「自分の取り分をとっておく」という手法です。貯蓄術でよく言われるのが「毎月余った分を貯金するのではなく、先に決まった額を貯金して余ったお金でやりくりする」ということです。余った分を貯金しようと思っていると、これといった贅沢はしてないつもりなのに月末にはお金を使い果たしてしまうという事態に陥りがちです。最初から「3万円は貯金に回す」と決めておけば、残ったお金でやりくりせざるを得ません。
この貯蓄術は時間術でも応用できます。「いつかは小説を書きたい」となんとなく思っている人はたくさんいます。しかしその中で実際に一本でも小説を書き上げたことがある人はほんの一握りではないでしょうか。もし小説を書くことがあなたの人生にとって重要なのであれば、「いろいろ落ち着いたら腰を据えて書き始めよう」と考えてはいけません。そう思っているうちに余裕で10年、20年が経過してしまいます。先に書いたように、仕事や家庭のことを上手にこなしても新しいタスクがどんどん舞い込んできて、落ち着くことはないのです。
仕事の前でも後でも、どこか一定の時間をとって小説の執筆にあてましょう。「20時から21時まで」のように、時間を決めてしまう方がいいと思います。デスクで作業していても14時に約束していた来客が来たら、作業を中断して来客対応しますよね。それと同じように、他のことをしていても20時になったら執筆に取り掛かるのです。
これを実践すると、SNS・同僚との飲み会・ジム通いといった、今までしていた活動のうちいくつかは諦めなければならないかもしれません。しかしそれは仕方のないことです。限りある時間の中で「すべてをやりきる」ということは不可能なのです。重要なことを優先するためには、他の重要度の低いことを捨てる勇気が必要です。もし「そこまでして小説を書こうとは思わない」ということであれば、あなたの人生にとって小説の執筆は単なる憧れであり、重要事項ではなかったといえます。
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