結局好き嫌いで決まってしまう

前回に引き続き、古代中国の思想家、韓非の話です。韓非は思想家が諸国の君主に自分の考えを説く際に、身に危険を招く7つのケースを紹介しています。そのうちの一部を挙げてみます。

・思想家が説いた考えを、君主が気に入って秘密にして実行する。ある人物がその秘密を察知したため、秘密は明るみになってしまった。君主は思想家を疑う。
・思想家が君主の信頼を得ていないうちに、自分の考えを洗いざらい説明した。君主がこれを実 行する。成功しても思想家は評価されない。失敗すれば思想家が余計なことをいったから失敗したと言われる。
・身分の高い人物に過失があった。思想家は君主に規則を並べ立ててこの過失を批判した。思想家は身分の高い人に狙われる。

なんというか、油断も隙もない感じですね。思想家は自分の考えを説くだけではなく、その過程で君主に疎まれたり側近に狙われたりしないように注意する必要があるのです。韓非は秦王政に高く評価されましたが、それに危機感を抱いた政の側近、李斯の罠にかかって服毒自殺を強要されました。思想家の危険を説いた韓非が自分自身を守れなかったのは皮肉な話です。

韓非は衛の国の弥子瑕(びしか)という男の話を紹介しています。弥子瑕は衛の国の君主に寵愛されていました(当時、君主が若い男性を寵愛するのは珍しいことではありませんでした)。衛の国の法律では、君主の馬車に無断で乗ると足を斬られます。あるとき、弥子瑕の母が病気になり、弥子瑕は急いで母のところに駆けるために「君主の命令である」とうそをついて君主の馬車に乗りました。君主は「母を心配するあまり罪になることを忘れてしまうとは親孝行なことだ」と言って、弥子瑕を罪に問いませんでした。やがて弥子瑕の容貌が衰えて君主の愛が薄らぐと、君主は「弥子瑕はけしからんやつだ。嘘をついて私の馬車に乗りやがった」と言って弥子瑕を咎めました。

弥子瑕のやったことは変わらないのに、君主の弥子瑕への愛が変化したために行動の評価が変わってしまったのです。これと同様に、提案する内容が同じでも相手があなたのことを好きかどうかで評価が変わります。好感をもたれていないあなたの優れた提案ではなく、好感をもっている相手の欠陥だらけの提案の方が採用されることもあるのです。身も蓋もない現実的な話かもしれませんが、決して目を背けてはいけない真実だと思います。

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