10月初め頃、ある女性歌手のディナーショーが、会場となるホテル側の不手際で中止になったというニュースが話題になりました。ホテルの説明によると、ディナーショーの主催者側が当日の予約を済ませて会場を押さえていたにもかかわらず、ホテル側の担当者が後から入った別の案件も同会場で受注したそうです。担当者はダブルブッキングを認識しながら、独断で要件を満たさない別会場をディナーショー用に押さえたといいます。その事実を隠して、主催者にはもともとの会場が押さえられていると虚偽の報告をしていました。前日の夜、ダブルブッキングの現状がホテルの管理者やディナーショーの主催者にも明るみになり、そこからでは到底準備も間に合わず中止を余儀なくされました。
このニュースに関しては様々な意見が飛び交いました。「そもそもいち担当者が前日の夜まで隠しきれるものなのか?会場設営、料理の準備、当日の段取りなどは前日より前に関係各所で確認しているはず。ダブルブッキングしているならもっと前の段階でばれてしまうだろう」という意見もありました。ただ、今回はホテルの説明の真偽については立ち入らず、一般論としてのダブルブッキングと、その対応に関して思うことを書いていこうと思います。
ダブルブッキングを防ぐには「ポケットはひとつ」という原則を守ることです。「電車の切符(今は皆ICカードだと思いますが)を買ったら必ずズボンの右ポケットに入れる」と決めておけば、改札を出るときはそこを探せばいい。なければ失くしたということです。切符をどこに入れるか決めていなければ、改札の前でジャケットやズボンのポケット、鞄の中から財布の中まで探し回ることになります。予約に関しても同じことがいえます。紙の手帳でもカレンダーアプリでもなんでもいいのですが、予定を書き込む場所をひとつに決めましょう。複数の予定管理アプリを利用したりアプリと手帳を併用したりすると、ミスのリスクが高まります。
予定が決まったらすぐに管理ツールに落とし込むのも重要です。「今ちょっと記録できないから覚えておいて後でやろう」といって記録を怠るのは、すっぽかしやダブルブッキングの素です。また、普段予定を管理している手帳またはアプリがないからといって、別の紙などに記録するのも避けたいところです。なにかあったときにすぐ直接記録できるように、可能な限り予定管理ツールを携帯しておくのが理想です。
どれだけ注意してもダブルブッキングをしてしまうリスクをゼロにすることはできません。うっかりダブルブッキングをしてしまった場合、それに気付いた時点で速やかに関係者に相談するのがベストです。対応が早ければ早いほど、損害が少なくリカバリーも容易になります。しかし現実には、ダブルブッキングを認識しながらギリギリまで隠してしまうケースも少なくありません。
すぐに相談できない理由として、「目の前の苦しみを避けたい」「あわよくばノーダメージで切り抜けたい」という心理があります。ダブルブッキングだけでなく自分のミスを報告するのは勇気がいります。「怒られたくない。無能と思われたくない」という思いから、言い出しにくいのも当然です。ギリギリになって発覚する方がダメージが大きいのは頭では理解できても、今報告することによって生じるであろうダメージの方を避けたいという気持ちの方が勝ってしまうのです。
また、ダブルブッキングしていても、黙っていれば相手の方から予定の変更やキャンセルを申し出てくる可能性もあります。この場合、自分のダブルブッキングの失点がなくなるうえに、相手都合の変更を受け入れたというアドバンテージまで得られます。特に今の時代は、直前でも体調不良などの理由で予定変更の可能性が高まっています。この他力本願の逆転を信じて、ダブルブッキングを隠し続ける人もいるわけです。
とはいえ、そういったラッキーが起こらずに直前でダブルブッキングが発覚した場合、隠していた人やその人が所属する組織の信用は失墜します。それを防ぐには「ミスをすぐに報告すれば怒らないが、隠した場合は厳しく罰する」という文化を浸透させることです。ダブルブッキングをしてしまっても、わかった時点ですぐに報告すれば組織としては処罰せずに全力でリカバリー対応する。隠し続けて直前で発覚した場合は、降格や減給などの厳しい処分を下す。このようにすれば、隠すデメリットの方が大きくなるので、すぐに報告するインセンティブになるでしょう。
このような対応をとっても抜け道はあります。ギリギリまで隠し続けて、「そろそろバレそうだな」と思ったら「今気付いたんですがダブルブッキングしてました!」と自ら報告したり、誰かの指摘で発覚しても「指摘によって気付きました。意図的に隠したわけではありません」と言い訳したりすることはできます。何事も完璧な対策は存在しないわけで、最終的にはその人の人間性や倫理観に依存することになります。