クレームと予防線

「区役所に『職員がコンビニの前でソフトクリームを食べている』という電話があった」というニュースが少し前に話題になりました。この職員はさぼっていたわけではなく、正午から1時間窓口対応をしていて、午後1時から昼休憩をとっていたとのことです。このニュースに関するコメントをざっと見てみると、9割以上が「職員は悪くない」という意見でした。

大多数の人が問題ないと思っていたとしても、話題にならない限りわざわざ「休憩時間に何しようが自由ですよ」と言うことはありません。一方で、「公務員がコンビニの前でアイスを食べるなんてけしからん」と考える少数派の人たちのさらにごく一部の人が、そういう光景を目撃して役所に電話してしまうのです。

このようなごく少数の人の無理筋に思える意見に対してあらかじめ予防線を張っている光景も見かけるようになりました。あるトラックには「周りに人がいない場合、熱中症対策のためマスクを外していることがあります」という掲示がありました。また、ヤクルトレディの自転車には「熱中症対策として、移動中など周囲に人がいない場所ではマスクを外すことがございます」という掲示がありました。ひとりで運転しているときなど、運転手がマスクをしていなくてもなんとも思わない人が多いと思います。しかし、「おたくの配達員が運転しているときマスクをしてなかったぞ!」と言ってくるごく一部の人に配慮してこのような掲示をする必要があったのでしょう。

ある商業ビルのトイレには「こちらのトイレは当ビルの従業員も使用させていただきます。ご理解いただきますようお願いいたします」という掲示がありました。へりくだりもここまで来たか、という感じです。ビルの従業員というのはビル側の人間であり、訪問者はビル内の店舗などに用事があって来た人たちです。どっちかというと、トイレを使わせていただくのは訪問者、客の方なのにここまでへりくだる必要があるのでしょうか。仮に、従業員がビルのトイレを使っているとクレームをつけてくる人がいるとして、どういう論理で文句を言うのか興味があります。

友人の家を訪問したとき、トイレに「こちらのトイレは家人も使わせていただきます」などと書いてあったらちょっと怖いですよね。「いやいや、使わせていただくのはこちらですから!」と言ってあげたくなります。

このように企業や自治体がクレームに過剰になった原因のひとつとして、SNSの発達があげられるでしょう。昔はいち消費者がひどい対応をされても、それを世間に訴えるのは簡単ではありませんでした。テレビや雑誌などのメディアを通じて発信するしかなかったのですが、多くの一般人はそのために誰にどういうアクションをとればいいのかすらわかりません。仮にメディアにコンタクトが取れても、それを報道するかどうかはメディア次第でした。

現代では名もなき一市民でも簡単にSNSを使って全世界に発信することができます。スマホでお手軽に証拠の写真や映像をおさえることも可能です。これにより、今まで泣き寝入りしてきたような事案が表に出るようになったのはいいことかもしれません。

しかし、手軽に発信できるようになったことによる悪影響もあります。一部の人は、些細な出来事でも「こんな不誠実な対応をされた!」とSNSで発信します。企業や自治体は、そういった記事が発信されること自体を嫌がります。それを防ぐために、先にあげたような予防線を張らざるを得ないのでしょう。あまり些細なことにカリカリせず、もう少し世の中全体が寛容になればいいなと思いました。

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