千正康裕『ブラック霞が関』(新潮新書)を読むと、現代の霞が関官僚の勤務実態がわかります。著者が20代の若手官僚の頃は、朝9時に出勤して仕事をこなし、夕方ごろから国会答弁の作成をして待機、22時過ぎに待機を解除して退庁・・・といった感じで1日を過ごしていたそうです。忙しいことは忙しいですが、仕事終わりに飲みに行くくらいの余裕はありました。一方、今の若手は20年前の官僚が1時間かけていた作業依頼を、5分程度で整理してメールを転送することで処理しています。そして次から次へと作業依頼が飛び込んできます。20年前と比べて仕事の密度が10倍くらいになり、仕事以外の雑談をする余裕もないそうです。
霞が関官僚の仕事で最も時間が割かれるのが国会対応です。国会の質疑応答は事前準備があります。質問をする国会議員の問題意識を官僚がヒアリングして、役所としての方針をメモに落とし込みます。その内容をもとに、大臣と議論して最終的な答弁書を完成させます。これを「ヤラセ」とか「出来レース」と批判するのは妥当ではありません。優秀な大臣でも、いきなり管轄する役所の問題について聞かれて的確な答弁をすることは不可能です。国会という場で発言する以上は、法令や各種規則、政府の方針など各方面に対して不都合が生じないような回答をする必要もあります。そのために、事前に質問内容を聞き取って、官僚と相談しながら答弁書を作るわけです。
質問をする国会議員が質問内容を事前に伝えることを「質問通告」といいます。質問通告は与野党の申し合わせで原則2日前の正午までということになっていますが、実際には前日の夕方から夜になることが多いそうです。2018年の内閣人事局の調査によると、質問通告がすべて出そろった自国の平均は前日の20時19分でした。そこから準備を始めて翌日の国会までに答弁を作るとなると、深夜から明け方までかかってしまうでしょう。
徹夜で国会答弁を作った後、サポートのために官僚も国会に同席します。これは緊張するでしょうね。野口悠紀雄『超整理法』のコラムで、著者の野口氏が旧大蔵省官僚だったときの国会対応の思い出が書かれています。大臣がわからないことがあって、大蔵省の幹部の方を振り向く。患部はその部下の方を振り向く。その部下(野口氏の上司)は野口氏の方を振り向く。野口氏が振り向いても壁しかない・・・これは恐怖でしょうね。私もそういう経験はありますが、社員数百名の民間企業の話。国会でこんなことがあったときの気持ちはいかほどか、想像もつきません。
夕方から朝まで国会答弁の対応をして、翌日は国会に同席し、役所に戻ってくるのは夕方です。これだけでも激務なのですが、仕事はこれだけではありません。しかしこのような毎日が続くと、国会対応以外の自分の仕事はなかなか進まないですね。規模はまったく違いますが、私も似たような状況だったことがあります。部署の定例会議の前日になって、上司が「〇〇に関するデータをまとめて参加者に配布しよう」と言い出すのです。それがまとめるのに結構時間がかかったりするので、元々抱えていた仕事を中断せざるを得なかったこともしばしばありました。急遽まとめたデータが生かされればまだ救いがあるのですが、追加で作った部分は5秒くらいの簡単な説明で終わったりすると、「これ作る必要あったの?」と思ってしまいます。
『ブラック霞が関』では、現在の中央官庁やその官僚の働き方に関する問題点が数多く示されています。それだけでなく、具体的な解決策が提言されているのが特色です。著者は20年近く厚生労働省で官僚として働いた経験があるだけに、非常に説得力があります。著者は2019年に退官後、株式会社千正組を設立してビジネスコンサルティングをおこなうほか、政府会議委員も務めているそうです。霞が関や官僚に興味がある人にはおすすめの本です。また、一般的なビジネス書としても面白い内容なので興味を持った人はご一読ください。