ケガに泣かされたNBA選手の話

アメリカのプロバスケットボールリーグ、NBAは世界で最も給料が高いリーグです。2019-2020年のデータでは、NBAの平均年俸は9.1億円で、2位のIPL(インドのクリケット)の5.8億円、3位のMLB(アメリカの野球)の4.4億円を大きく引き離して1位です。今回はNBAの中でも高年俸を稼ぐ選手だったジョン・ウォールについて話します。

ウォールは1990年に生まれ、2010年のNBAドラフトにおいて全体1位でワシントン・ウィザーズに指名されました。入団1年目から頭角を現し、新人王の投票では2位を獲得しました。その後も活躍を続け、2017年7月にはウィザーズと4年1億7000万ドルの契約を結びました。当時だいたい1ドル110円とすると、4年で187億円、1年あたり46億円の契約です。平均年俸の9億円でもべらぼうに高額ですが、46億円は高すぎて現実感がありません。当時のトップスターであるレブロン・ジェームズやケビン・デュラントよりも高額です。この契約は、のちにメディアやファンから史上最悪の契約と評されることになります。

ウォールは187億円の契約をした直後のシーズン途中、左ひざの手術によりしばらく欠場となりました。そのシーズンは最終的に全82試合中41試合の出場にとどまりました。その次のシーズンでは、12月に左かかとを負傷して、それ以降の試合は全休となり、32試合しか出場できませんでした。

4年で187億円という破格の契約をして最初の2年間、半分以上の試合を欠場という結果になりました。チームにとってもファンにとっても、期待外れと言わざるを得ないでしょう。しかし、これはまだ序章に過ぎませんでした。

ウォールは手術後、自宅で転倒してアキレス腱を断裂してしまいました。アキレス腱断裂は回復までに時間がかかります。手術をする場合、術後約2か月で正常な歩行が可能になり、半年以降でスポーツへの復帰が可能といわれています。ウォールの場合、復帰までに約12か月かかると診断されて、翌シーズンは全休となりました。

試合や練習でケガということであれば、まだ仕方ないと思えるかもしれません。しかし、自宅で転倒して1年間休みとなると「気を付ければ避けられたんじゃないか」という思いがどうしても頭をよぎってしまいます。NBAでトップクラスの給料をもらいながら、ケガで1年丸ごと休むというのは、ファンにとっては非常に残念な話でしょう。しかし本人にとってはもっと残念でしょうね。

ウォールは1年間全休した次のシーズン途中で、ヒューストンロケッツにトレードされました。トレード後のシーズンでは40試合に出場し一定の活躍を見せたのですが、4月には右ハムストリングスの負傷で残り試合を欠場することになりました。この時点で、ロケッツはウォールをトレードする可能性を模索していましたが、高額年俸がネックとなり成立しませんでした。

2021-2022年シーズン、ウォールはロケッツで試合に出場するつもりはなかったのですがトレードも成立しませんでした。結果として、ウォールはロケッツに所属してチームに帯同するものの試合に出場しないという日々が続きました。日本のプロリーグでは考えられないような状況ですが、NBAではこういったことがときどき起こり得るのです。

今年の6月、ウォールはフリーエージェントとなり、7月にロサンゼルス・クリッパーズと契約しました。2年で約18億円の契約でした。4年で187億という最高クラスの契約と比較すると、かなり金額が下がりました。それでもNBA全体の平均くらいです。

ウォールは今年32歳で、プロスポーツ選手としては決して若くありません。スポーツ科学やトレーニングの発達により、30代後半になっても高いパフォーマンスを発揮する選手は増えましたが、大きなケガを重ねてきたウォールが20代の頃のような活躍ができるかは未知数です。

変な話なんですが、ウォールを見ていると勇気づけられることがあります。とんでもない高額報酬をもらっておきながら、期待された結果を残せなかったり、数か月から丸1年くらいのスパンで試合に出場できないというのは、当人にとって計り知れないストレスだと思います。一方で私は、仕事で失敗すると「こんなはずじゃなかったのに」「まわりは無能と思ってるんだろうか」などとくよくよ考えてしまうことがあります。しかし、何十億円ももらっておきながら丸1年休むことのプレッシャーを考えると、本当に些細なことだと開き直れるのです。

それはそれとして、今年こそウォールにはかつての輝きを取り戻して大活躍してほしいと願っています。

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