好き嫌いとメリットデメリットの関係

糖尿病による死亡者数と事故(交通事故・火災・自然災害などあらゆる事故)による死亡者数、どちらが多いと思いますか。ポール・スロヴィックらがおこなった実験によると、この質問に対して被験者は「事故死は糖尿病の死亡数の300倍」と予想しました。実際には糖尿病が事故死の4倍です。

事故死はニュースとして取り上げられやすいものです。大破した車や炎に包まれた建物の映像は我々の記憶に鮮明に残ります。一方で、糖尿病で誰かがなくなっても、それが有名人ではない限り報道されることはないでしょう。我々は、よくニュースで見かけて印象に残る事故死の数を実際よりも多く見積もり、あまり見聞きすることがない糖尿病による死の数を少なく見積もります。

スロヴィックらの別の実験の話。この実験では、化学プラント・防腐剤・自動車など様々な技術について被験者に好き嫌いを言ってもらいます。そのうえで、それぞれの技術のメリットとデメリットを書かせます。

ある技術について「好き」と判断した被験者は、メリットをたくさん書き出し、デメリットはほとんど思い浮かびませんでした。逆に、「嫌い」と判断した被験者は、デメリットを強調してメリットは考慮しないという結果になりました。

この実験には続きがあります。好き嫌いの判断とメリットデメリットの書き出しが終わった後、被験者は2つのグループに分けられました。グループ1には、ある技術のメリットを強調したメッセージを聞かせました。グループ2には、ある技術のリスクの低さを強調したメッセージを聞かせました。その後、両グループの被験者に改めてメリットとデメリットを評価させました。

その結果、メリットを強調したグループ1は、デメリットへの評価が低くなりました。また、リスクの低さを強調したグループ2は、メリットを最初よりも高く評価するようになりました。よく考えればこれは不合理な判断です。グループ1はメリットを強調されただけで、デメリットに関しては新たな情報を得たわけではありません。にもかかわらず、デメリットを低く見積もるようになったのです。

例えば、あなたが防腐剤に関して「アレルギーを引き起こすリスクがある」と考えているとします。その後「防腐剤はカビや細菌の生育を抑えて食中毒を予防する効果がある」というメリットを強調するメッセージを聞いたとします。そのメリットは、「アレルギーを引き起こす」というリスクとは無関係です。食中毒を予防する効果があるからといって、アレルギーのリスクが下がるわけではありません。メリットを強調するメッセージを聞いてリスク評価を変更するのは不合理です。しかし、実際にはそうした不合理が成立しまうことを実験結果が示しています。

私たちは、メリットとデメリットを洗い出したうえで客観的に比較して、好きか嫌いか決めているわけではないようです。実際の順序は逆で、最初に好きか嫌いか決めて、好きになったものに対してはメリットを高く評価し、嫌いになったものに対してはデメリットに注目するのです。

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