マイナスをなくすか、プラスを伸ばすか

リサーチ会社のフォレスターでは、様々な業界において顧客体験の調査をおこなっています。フォレスターのある調査では、顧客にサービスの感想を「1(最悪)」から「7(最高)」までの7段階で評価してもらっています。

もしあなたが企業の幹部だとして、調査結果を受けてどのようなアクションを起こすでしょうか。大きく分けて2つのアプローチが考えられます。ひとつは、1~3点までの低評価の顧客を4点以上に引き上げることです。もうひとつは、4~6点の顧客を7点に引き上げることです。つまり、「低評価を高評価にする」か「高評価を最高評価にする」かの二択です。

組織行動論、経営戦略の専門家であるチップ・ハースらは、複数の企業幹部に上記の質問をしてみました。対象企業にはディズニー、ポルシェ、サウスウエスト航空などの世界的な有名ブランドも含まれます。ほどんどの企業が、「低評価の顧客への対応に80%のリソースを割きたい」と回答しました。

しかし、フォレスターの試算によると、低評価の顧客に労力を投じるのは効率が悪いようです。例えば、航空会社のサービスを7点と評価した顧客は翌年に約2200ドルの航空費を使います。一方で、4点と評価した顧客は800ドルしか払いません。航空会社だけでなく、どの業界でも満足度の高い顧客はその企業のサービスに多くの金額を払います。

評価を1点から4点にするよりも、4点から7点にする方が追加支出額が大きくなります。さらに、1~3点の低評価グループよりも4~6点の高評価グループの方が圧倒的に人数が多いのです。したがって、高評価グループの方が同時にアプローチできる人数も多くなります。フォレスターの試算によると、低評価をなくす戦略と比べて、高評価をさらに引き上げる戦略は8.8倍売上が増えるそうです。

このような試算が出ているのにもかかわらず、なぜ多くの企業は「低評価をなくす」という戦略を選ぶのでしょうか。その理由のひとつとして、人はマイナス情報に注目しがちであるということが挙げられます。

誰でも、仕事やプライベートで手痛い失敗をした経験はあるでしょう。そうした経験は忘れたくても忘れられません。もう今更どうしようもないのに、ふとした瞬間に思い出しては「あのときああしていればあんな失敗は避けられたのに」と後悔してしまうものです。企業の幹部も同様に、マイナス評価に対して過敏になって、必要以上の労力を割いてしまうのだと思います。

「マイナス評価の顧客は切り捨てろ」と言っているわけではありません。サービス側の不手際で顧客に不快な思いをさせてしまった場合は、率直に謝罪すべきでしょう。ただ、謝罪などの必要な対応をしたら、それ以上深追いせずに高評価をさらに引き上げる方にリソースを割いた方がいいのです。

企業のサービスだけでなく、個人についても同じことが言えます。自分と相性が悪い人(=自分に対して低評価を付けた人)との関係改善を図るよりも、相性がいい人との関係性をより深める方が充実した人生を送れるでしょう。また、苦手なものを人並レベルに改善するよりも、得意なものをさらに伸ばす方が楽しいし、その見返りも大きくなります。

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