なぜ予防に力を入れないのか

一般的に、問題が起こってから対処するよりも、問題が起こらないように予防する方が効率的です。毎日好きなものを好きなだけ食べて、ろくに運動をしない生活を続けていると、生活習慣病のリスクが高まります。いったん生活習慣病になると、治療のために貴重なお金や時間が奪われてしまいます。栄養バランスに気を配って食べ過ぎないようにして、定期的に運動するのはときに面倒かもしれません。しかし、不摂生が原因で病気になってしまうことを考えれば、安い投資でしょう。

ある程度の規模の企業にはコンプライアンス部門が設置されています。コンプライアンス部門は、不法行為や企業にとってリスクがある行為を未然に防ぐために、企業活動に制限を加えることもあるので、煙たがられがちです。「その部下への指示はパワハラに当たります」「その営業のやり方は〇〇法に抵触する恐れがあります」・・・コンプライアンス部門からこういった指摘を受けて、他部門の社員は「何も生産しないくせに俺たちの仕事の邪魔ばかりしやがって」と思うこともあるでしょう。しかし、ひとたびコンプライアンス違反が世間に発覚してしまうと、費用面や信用面で大きなダメージを受けてしまいます。

予防の方が効率的であるとわかっていながら、予防を怠り大きな問題に発展してしまうことがよくあります。なぜ人は予防活動に力を入れないのでしょうか。その理由のひとつとして、予防活動は楽しくないということが挙げられます。健康に配慮した食事は多くの人にとって刺激が少なく退屈です。ヒット商品を生み出すための企画・研究・広報・営業は人気があって注目されやすい職種です。一方、その商品が現行法に照らし合わせて問題ないか、広報・営業のやり方に問題はないかチェックする仕事は、地味だし一般的にあまり人気がありません。

また、予防活動の成果は計測しにくいということもあります。ある企業のエンジニアが、社内システムのセキュリティリスクに気付いて改善を提案したとします。改善には一定のコストがかかります。そして、コストをかけて得られるのは、「問題が起こらない。今まで通り」という結果です。「セキュリティ対策なんて今までしてなかったけど、問題が起こったことはないじゃないか。なんでわざわざ現状維持のためにコストをかける必要があるんだ」。このように考えて改善の提案が却下されるというのはよくあることです。

提案が受け入れられて、セキュリティリスクが改善されたとします。改善後、セキュリティ関連の問題は起こっていません。問題が起こっていないのは、セキュリティ対策をしたおかげなのでしょうか。対策していなければ、何らかの問題が起こっていたのでしょうか。それとも対策などしなくても問題が発生することはなかったのでしょうか。これらの疑問に正確な答えを出すのは困難です。一方で、営業活動への投資は、その効果を客観的に計測しやすい。このような背景から、予防活動は軽視されがちです。

次回は、予防活動が適切に行われた例とその教訓などについてお話します。

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