Aさんはコンビニの社員で、弁当の新メニュー会議に参加しています。新メニューの候補は、幕の内弁当かハンバーグ弁当のふたつに絞られました。進行役がAさんに意見を求めます。Aさんは上の空で会議に参加していて、どちらがいいかまだよくわかっていません。
Aさんは「自分の中で考えがまとまってないので」などと言って逃げることができず、何の根拠もなく「幕の内弁当がいいと思います」と答えてしまいました。大人の会議ですから、これで発言を終わらせるわけにはいきません。なぜそう思うか、自分なりの根拠を示す必要があります。Aさんは、自分の知識や会議資料から幕の内弁当の良い点をピックアップして、それらを幕の内弁当を支持する根拠として示しました。
その後、ハンバーグ弁当がいいという意見が出ても、Aさんは幕の内弁当を推し続けます。なんとか幕の内弁当が採用されるように主張します。意見を聞かれた時点ではまだどちらがいいか固まっていなかったはずなのに。Aさんは「一貫性の原理」に従って行動したといえます。
「一貫性の原理」とは、最初に表明した意見や、取った行動などを最後まで通そうとする心の働きのことです。下記のような行動は、一貫性の原理と関連があります。
・みんなの前でダイエットすると宣言したので、多少つらくても続けている
・いまだにスマホではなくガラケーを使い続けている
・クレームをつけた後で自分の誤解だとわかったが、クレームを取り下げない
新メニュー会議の例でいえば、最初、Aさんはなんとなく幕の内弁当がいいと表明しました。いったん表明してしまうと、自説イコール自分のアイデンティティとなって、引けなくなってしまったのです。
一貫性の原理は営業トークでも使われます。例えば以下のように。
顧客「ただ値段がねえ」
営業「値段がネックということでしょうか」
顧客「そうです」
営業「では、仮に値段が5%下がったら契約していただけますか」
顧客「ええ、まあ・・・」
顧客はなんとなく契約に乗り気でないのですが、断り文句として値段を理由にしているのかもしれません。しかし、いったん「値段がねえ」と言ってしまうと、ここで一貫性の原理が働きます。本当は、商品にそこまで魅力を感じないとか、営業マンとノリが合わないとか、様々な理由があるかもしれません。しかし、一度値段が問題だと表明してしまうと、その意見に縛られてしまうのです。この後、営業が5%値引きした見積もりを持ってきたとき、顧客は他に断る理由が言えずに契約に至るかもしれません。
一貫性の原理自体はいいものでも悪いものでもありません。利用のしかたによっていい方向にも悪い方向にも作用します。一貫性の原理が悪い方向に働いて、自分の不利益にならないためにはどうすればいいでしょうか。ポイントは、最初の意見を自分のアイデンティティと同一視しないことです。最初の会議の例でいえば、「幕の内弁当がいい」というのは、あくまでその時点でAさんが得られる情報に基づいた意見です。その後、新たな情報を得て「やっぱりハンバーグ弁当がいい」と思ったとしても、Aさんのアイデンティティが崩れるわけではありませんし、Aさんがいい加減な人であることを意味するわけでもありません。状況が変われば判断も変わるものです。このように柔軟に考えれば、一貫性の原理のために意固地になることを避けられるでしょう。