罪悪感が解放される瞬間

行動経済学者のダン・アリエリーは、マサチューセッツ工科大学の学生寮である実験をおこないました。アリエリーは、学生寮の共用冷蔵庫に6本パックの缶コーラをこっそり入れて立ち去ります。複数の共用冷蔵庫に缶コーラを置いてきたのですが、すべて72時間以内になくなってしまいました。コーラを飲んだ学生は、全員「このコーラは自分のものではない」ということを認識しながら、飲み干してしまったわけです。

アリエリーは、コーラの他に別のものも共用冷蔵庫に置いていきました。現金です。6枚の1ドル札を載せた皿を置いたのです。コーラは72時間以内にすべて消え失せましたが、1ドル札は72時間たっても1枚も減っていませんでした。コーラというモノは気軽に持ち去れるのに、現金に手を付けるのは抵抗があるようです。

個人的な役所での手続きのために何枚か書類をコピーする必要があるとします。そのために職場のコピー機を使うことに抵抗はありますか。「数枚くらいならいいんじゃない」と考える人もいるのではないでしょうか。一方で、コンビニでコピーするのに必要な代金50円を会社の小口現金箱から拝借するのは、多くの人が抵抗感があるでしょう。職場のコピー機で私的なコピーをするのも、本来自分が支払うべきコピー代を職場にこっそり負担させる行為ですから、組織に損失が生じます。それでも私たちは「コピー機で私的コピーをするのはギリセーフ、コピー代を拝借するのはアウト」という線引きをするのです。

アリエリーは、この事象をさらに掘り下げるために別の実験をおこないました。この実験では、学生に協力してもらって20問の簡単な算数の問題を解かせます。協力者は正解1問ごとに50セントを渡します。学生には3種類の異なる対応をしました。

【グループ1】
テストを終えた後、解答用紙を提出させた。主催者は正解の数を数えて1問あたり50セントを支払った。

【グループ2】
テストを終えた後、解答用紙は破棄してよいと伝えた。その後、学生は正答数を主催者に伝えて、主催者は正答1問あたり50セントを支払った。

【グループ3】
テストを終えた後、解答用紙は破棄してよいと伝えた。その後、学生は正答数を主催者に伝えた。主催者は、正答数に応じて引換券を渡した。学生は引換券をもって別の部屋に行き、1問あたり50セントの現金と交換する。

アリエリーは実験に参加する学生をランダムに選んでいるので、全員が正直に正答数を申告すれば平均点はどのグループもだいたい同じになるはずです。しかし、結果は差がつきました。

グループ1:平均正答数3.5問
グループ2:平均正答数6.2問
グループ3:平均正答数9.4問

グループ2の解答用紙を見せなくていい条件だと、だいたい2.7問分正答数を盛ると考えられます。そして、グループ3の直接現金を渡すのではなく引換券を経由する条件だと、だいたい5.9問分も盛ってしまうことがわかりました。また、450人の協力者のうち24人が20問全問正解したと申告しました。その24人は全員グループ3の学生でした。不正ができないグループ1の平均点が3.5点で、かつ全問正解者がいなかったことを考えると、全問正解と申告した24人はほぼ不正をしたと考えていいでしょう。現金ではなく引換券を経由すると、罪悪感・道徳感が解放されてしまうようです。

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