アメリカのマーケティング会社「レキシコン」は、ペンティアム・ファブリーズ・ブラックベリーといった有名ブランドの名付け親になってきました。レキシコンでは、ブランド名を考える際に複数の選択肢を同時に検討するという手法をとってきました。
レキシコンが2006年にてがけたコルゲート社の使い捨て歯ブラシを例にとってみましょう。この歯ブラシのブランド名を検討する際、担当者は軽さ、清潔さを連想させる名前にするべきだと考えました。そこで担当者は70名の言語学者に、複数の言語で軽さを暗示する言葉を個別に考えさせました。
言語学者によって挙げられた多数の候補の中で、「ウィスプ」という単語が目に飛び込んできました。この言葉は、軽さと清潔さが伝わる最適なものに見えました。こうして、歯ブラシのブランド名は「コルゲート・ウィスプ」に決まりました。
レキシコンでは、関係者が集まって一緒に名前を考える手法を採用していません。言語学者に名前の候補を挙げさせる際も、個別に考えさせます。また、社内でも複数のチームをつくって、チームごとに異なる観点からネーミングの作業に取り組ませます。このようなプロセスは、結果につながらない無駄な作業も多くなってしまいます。しかし、少人数のチームがそれぞれ異なる観点で作業に取り組むため、大人数のチームで作業するときにありがちな「チーム内で発言力のある人の意見に流される」「最終的に無難なアイデアが選ばれる」といったリスクを減らせるというメリットがあります。また、組織のしがらみにとらわれない斬新なアイデアも生まれやすくなります。
グラフィックデザイナーを対象としたある調査によると、複数の選択肢を同時に進める手法は、作業者のパフォーマンスも高めることがわかっています。広告制作を依頼されたデザイナーに、2種類のプロセスをランダムに割り当てました。
デザイナーの半分は、ひとつずつウェブ広告をデザインして依頼者に提出し、フィードバックを受けます。フィードバックを受けたデザイナーは、それを参考にして広告を作り直します。デザイナーは合計5回のフィードバックと作り直しを経て最終版ができあがります。最終的にデザイナーは最初の分と5回の作り直し、合わせて6つの広告を作りました。
残りの半分のデザイナーは、最初に3つの広告を制作し、3つそれぞれに対してフィードバックを受けます。その後、さらにフィードバックを受けて選択肢を2つに絞り、最終的にはひとつに絞り込みます。
その結果、最初に3つの広告を制作したグループは広告のプロからの評価が高く、実際の広告効果も高いことがわかりました。その理由として、後者のグループのデザイナーは複数のアイデアについて同時にフィードバックを受け取ることで、それぞれの広告についての評価を比較・分析することができたからということが挙げられます。3つの広告の特徴を見比べて、いい要素を組み合わせて悪い要素を削除できたというわけです。
また、後者のグループのデザイナーの80パーセント以上が「フィードバックは役に立った」と答えましたが、前者のひとつずつ広告を作ったグループのデザイナーのうちフィードバックが役立ったと答えたのはわずか35%でした。
ひとつずつ広告を作ったデザイナーは、作品=自分自身ととらえてしまっていたと推測されます。そのため、「この部分はこうした方がいいのでは」というフィードバックが建設的な意見ではなく、自分自身への批判のように感じてしまったのでしょう。複数の作品を提出した場合、作品と自分自身を切り離して考えることができて、フィードバックも素直に受け止められるというわけです。
複数の選択肢を同時に進める方法をうまく使えば、成功する確率を高めることができるうえに、作業者のパフォーマンス向上にも役立つようです。