生きていると、様々な嫌なことにあうものです。電車で強めに押されたとか、上司に理不尽な怒られ方をしたとか、立ち寄った店で店員の接客が気に入らなかった・・・など。そういった出来事が重なると、怒りやイライラが心の中にどんどん溜まっていきます。
そういったとき、どのようにストレス解消しているでしょうか。おもいっきりダッシュを繰り返すとか、サンドバッグを叩きまくるとか、シャワーを浴びながら大声を出すといったことをしている人がいるかもしれません。心に溜まった怒りが爆発する前に発散させているので、有効な方法のようにみえます。しかし、実際には事態が良くなるどころか悪化してしまうことがわかっています。
ブッシュマンという心理学者が、ガス抜きが役に立つかどうか確かめるためにある実験をおこないました。まず、被験者の学生を3つのグループに分けて論文を読ませました。論文の内容は以下の通りです。
1:中立的な論文
2:怒りを吐き出すのは有効だというでっちあげの論文
3:怒りを吐き出すのは無意味だというでっちあげの論文
その後、中絶に賛成か反対する内容の小論文を書かせます。ブッシュマンは学生たちに、小論文の内容は学生に採点させると伝えるのですが、実際にはブッシュマンが採点します。半分の小論文は「非常に素晴らしい」という評価が与えられますが、残りの半分は「かつてないほどにひどい」と酷評されました。
小論文の返却後、学生たちは「今何をしたいか。ゲームをする・コメディを見る・物語を読む・サンドバッグを殴る、などの選択肢から選びなさい」と言われます。「怒りを吐き出すのは有効だ」という論文を読んで、自分の小論文が酷評された学生は、他の小論文が酷評された学生よりも「サンドバッグを殴る」を選ぶ割合が高くなりました。いずれのグループも、小論文が高評価だった学生は、高い割合で攻撃的ではない活動を選びました。つまり、「怒りを吐き出すのは有効だ」という情報に触れるとその通りに行動したくなるということです。
さらに実験は続きます。小論文を酷評された学生を2つに分けて、どちらにも「あなたの小論文を酷評した相手とゲームをします」と伝えます。グループ1には、ゲームの前にサンドバッグを殴らせ、グループ2は数分間何もしないで座らせます。その後、ゲーム開始です。ゲームのルールは、「相手より早くボタンを押した方が勝ち」というものです。勝つと相手に罰として騒音を聞かせられます。音量は0から10まで調整できます。ゲームの前にサンドバッグを殴った学生は、罰ゲームの音量の平均は8.5でした。一方、座っていた学生は2.47でした。サンドバッグを殴った学生は、それによって怒りを鎮めることはできなかったのです。
この実験によって、「怒りを吐き出しても怒りを鎮めることはできない」ということがわかりました。それどころか、より攻撃的になってしまいます。確かに、イライラしたときに大声を出したり物に当たったりする人が、その後スッキリして穏やかになるかといえば、私の経験から考えるとそうはなっていませんでした。むしろよりイライラしているように見えました。
では怒りに対処するにはどうすればよいのでしょうか。ブッシュマンは、冷却期間を置くことを推奨しています。実験にあったように、座ってじっとしているのもいいでしょう。また、穏やかな内容のストーリーを読むとか、絵画を眺めるといった精神が落ち着く活動をするのもいいと思います。