看板に偽りがある場合もある

総務省の統計によると、2020年の書籍の新刊点数は68,608点。毎日約180冊の新刊が出ている計算になります。膨大な新刊の中で売れるのはほんの一部です。本が売れるためには、まず手に取ってもらう必要があります。そのため、出版社は工夫を凝らして読者の興味を惹くようなタイトルを考えます。

「なぜ○○は○○なのか」
私が初めてこの手のタイトルを目にしたのは『暗証番号はなぜ4桁なのか?』(岡嶋裕史)です。確かに、キャッシュカードや携帯電話契約時に決める暗証番号など、多くの暗証番号は4桁です。「なぜ4桁なのか」と聞かれたら「そういえばなんでなんだろう」と思ってしまいそうですね。このように、普段は特に気に留めないような事実に関して「どうしてそうなんだろう」と思わせて、興味を惹くようなうまいタイトルだと思います。他には『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』(山田真哉)という150万部以上売り上げたベストセラーがあります。さおだけ屋は1本千円程度で物干し竿を売り歩いていますが、物干しなんてそう頻繁に買うことはありません。言われてみれば、なぜ経営が成り立つのか不思議ですよね。この本のサブタイトルは『身近な疑問から始める会計学』です。タイトルがこれだけであれば、そこまで売れていなかった気がします。身近な疑問の具体例をタイトルに持ってきたことで、会計に興味がない人もこの本を手に取ったことでしょう。

「なぜ~」系のタイトルで、意外な事実を提示するパターンもあります。『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(堀内都喜子)。フィンランド人は午後4時に仕事を終えていることを知っている日本人は多くはないと思います。あえて「なぜ~」系のタイトルにすることで、「フィンランド人って午後4時に仕事が終わるんだ?でもなぜなんだろう?」というように、驚かせたうえでどうしてそうなるのか疑問を抱かせる狙いがあるのでしょう。

さらに応用して、一般的には事実として認めがたいことをさも事実であるかのように「なぜ~」と問いかけるパターンもあります。『いま20代女性はなぜ40代男性に惹かれるのか』(大屋洋子)。このタイトルは「20代女性は40代男性に惹かれる」というのが事実であるという前提があります。しかし、多くの人が「確かにどうしてなんだろう」と思う前に「いや、そんなことないでしょ?」と言いたくなるのではないでしょうか。

「○○するな」
『英語は絶対、勉強するな!』(鄭讃容)。「英語は勉強した方がいい」というのは、多くの日本人の共通認識です。それをあえて禁止するタイトルにすることで、「なんでだめなの?」と興味を持たせる狙いがあります。『食い逃げされてもバイトは雇うな』(山田真哉)、『仕事なんか生きがいにするな』(泉谷閑示)も、同様の効果があります。通常、そうした方がいいとされることを禁止するのがポイントです。『線路に置き石をするな!』とか『エスカレーターからむやみに身を乗り出すな!』(いずれも架空のタイトル)のように、当たり前のことをタイトルにしてもあまり意味がありません。

「○○力」
これ系の書籍で最も売れた部類に入るのが『聞く力』(阿川佐和子)でしょう。この本のヒット以降、「○○力」というタイトルの本を多く目にするようになりました。『聞き出す力』は吉田豪の作品として有名ですが、近藤勝重も『聞き出す力 「まさか」「ウソでしょう」で秘密の話が聞ける』という本を出しています。『老人力』(赤瀬川原平)、『質問力』(齋藤孝)のように、名詞の後に「力」を付けて一つの単語のようにするパターンもあります。一つの単語のようにすると、「そんな力があるんだ?どうやったらその力を手に入れられるのかな」と思う人がいるかもしれません。

このように、出版社は本を手に取ってもらうためにインパクトのあるタイトルを付けることがあります。タイトルに惹かれて買ったものの、中身はあまりタイトルと関連がなく、読後に得られるものも少なかったということもあります(私も読み始めて数分で買ったのを後悔したことがよくありました)。そういう失敗をなくすためには、やはりネット書店ではなくリアル書店で数ページ試し読みして、本当に買う価値があるのか吟味するのがいいでしょう。

(最後に注意書き)今回例に挙げた本が中身がよくないと言っているわけではありません。実際に読んだ本もありますし、読んでない本もあります。

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