ジムである器具を使おうと思ったら「修理中」という貼り紙がしてありました。私はこの表現に違和感を覚えました。修理中と書いてあるものの、作業着を着た人がいて修理しているわけではありません。「~中」という表現は、ある動作や状態が継続していることを意味します。誰も修理していないのであれば、「修理中」ではなく「故障中」と言うのが適切でしょう。
糖尿病の患者がいるとします。その患者は月1回病院に通って、医師の診察と指導を受けています。患者は医師の指導に従って、薬を飲んだり食事制限をしたりしています。この場合、患者は医師の診察を受けているときや薬を飲んでいるとき以外でも「糖尿病の治療中」と言っていいでしょう。治療の始まりから終わりまでの間は「治療中」と表現することができます。
ビルが建てられている現場があるとします。ビルというのは普通、1日で建て終わることはなく、数か月から数年の建設期間を要します。現場で作業員が作業をしていれば、当然「建設中」と言えます。また、現場が休みの日で誰も作業をしていなくても、「このビルは建設中だ」と言えるでしょう。建て始めから終わりまでの期間は、今その瞬間に作業をしていなくても「建設中」と表現できます。
ジムのトレーニング器具の場合、普通は1日で修理が完成します。作業員が何日も通って修理する必要がある場合は稀でしょう。そのため、目の前で作業員が修理をしているわけでもなく、作業員が一時的に席を外しているだけというわけでもなさそうだった最初のケースで違和感を覚えたのです。もし「今回は大がかりな修理が必要なケースで、作業員が何日かに分けて修理をしている途中だった」とすれば「修理中」という表現で差し支えなく、その場合は潔く「難癖をつけて申し訳ない」と謝ろうと思います。
「~中」という表現を用いる場合、「その動作・状態が継続しているのは一時的であり、いずれ終了する」という前提があります。「修理中」の場合、それは一時的な状態であり、いずれ修理が終わるという前提があります。「治療中」「建設中」も同様です。
したがって、いずれ終了するという前提がない動作・状態に関して「~中」という表現を使うと、奇妙に聞こえます。「死亡中」というと、死んでいる状態が終わって生き返るかのようなニュアンスがありますから、普通はこんな言い方はしません。
「私たちは婚約中です」という表現は問題なく使えます。婚約している状態は近い将来終わり、結婚という状態に移行するからです。一方で、「私たちは結婚中です」と言われたら「え?」と聞き返したくなりますね。「結婚している状態がいずれ終わりを迎え、離婚する」という前提があるかのように聞こえるからです。「私たちは結婚しています」なら問題ありません。「~している」という表現は、「~中」と同じく動作・状態が継続していることを表しますが、「~中」と違ってその状態がいずれ終わるという前提を含みません。
何気なく使っている「~中」という表現も、ちょっと掘り下げると細かなルールがあることがわかります。日本語というのは面白いですね。