前回の記事でキーストーンハビットについて紹介しました。適切なキーストーンハビットを選んで習慣化すると、連鎖的に他の良い習慣も定着して問題解決や状況改善につながります。今回はキーストーンハビットに関する国内企業の事例を紹介します。
ネット広告事業、メディア事業、ゲーム事業などを展開するサイバーエージェントは1998年に設立され、2000年に東証マザーズ市場に株式上場しました。2007年、サイバーエージェント社長の藤田晋氏は伸び悩んでいたアメーバ部門(アメーバブログなどを運営)の本部長に自ら就任し、「2008年3月に月間30億ページビュー(PV)を達成する」と宣言しました。藤田氏はその日からPVを伸ばすことだけにリソースを集中し、部門内では、とにかくPVを伸ばせば評価されるようにしました。
藤田氏によると、PVを伸ばすために必要とされるのは「コンテンツ3割、技術力7割」だそうです。快適にページを見られることや、見やすいレイアウト・デザインを作る技術力がPVを伸ばすということです。藤田氏はアメーバの技術力を上げるために約50名の精鋭技術者を採用し、サービスの内製化を進めました。このようにPVを伸ばすことだけに集中した結果、アメーバの質は上がり、自然と人が集まるようになってきました。
サイバーエージェントは2008年1月、目標より2か月前倒しで月間30億PVを達成しました。そして広告も自然と集まってくるようになって、売上も伸びていきました。2009年9月には黒字化も達成、2010年の決算では通期で黒字化し、20億円を超える営業利益を上げました。
前回紹介したアルコアでは「社内の事故をなくす」、今回のサイバーエージェントでは「PVを伸ばす」という目標を掲げて、それに向かって全体が突き進んだ結果、売上や利益が伸びました。両社の目標には「反対しにくい」という共通点があります。アルコアに限らず、どんな会社でも「事故をなくそう」という目標に表立って異議を唱える人はいないでしょう。また、ブログサービスを提供している会社がPVを伸ばすことを目標にすれば、反対する理由はありません。
もうひとつの共通点として「社員にとってにわかには信じがたい」ということがあります。多くの社員は「そうはいっても売上とか利益は見なくても大丈夫なんですか」という疑問を抱くものです。この疑問を払拭するためには、トップが強力なメッセージを発する必要があります。
アルコアの場合、社長に対して安全についての意見があればいつでも電話するように、社員に直通番号を教えて「本気で社内の安全に取り組んでいる」というメッセージを伝えました。サイバーエージェントでは、ヒットサービスを開発してPV向上に貢献した社員は社長自らが手厚く扱いました。一方で、ユーザー視点に立っていない案は社長が問答無用で却下していました。このように、日々言葉や行動で一貫したメッセージを発信し続けないと、様々なしがらみによって方向性がブレてしまうものなのです。
仮にあなたが経営者で「これからは顧客満足を最優先事項として追及する」と宣言したら、本当にそれ以外のことは目をつぶらなければなりません。顧客満足につながる仕事ができているが売上はイマイチな社員がいても「売上がこれじゃだめでしょう」と叱責してはいけないのです。それをやれば、社員は「顧客満足は建前でやっぱり大事なのは売上なんだ・・・」と悟ります。藤田氏は、アメーバのPVに注力していた期間、社員から「どうやって稼ぐんでしょうか」と聞かれても取り合いませんでした。投資家から「アメーバはいつ黒字化するのでしょうか」と聞かれても「売上は一切見ていません。30億PVを超えたら自然に売上は伸びます」と言い続けました。目標は決めることよりも、それに向かって進み続けることの方が難しいのです。