「岡目八目」という言葉があります。これは囲碁の用語で、「当事者よりも横で見ている者のほうが物事の真相や得失がよくわかり、的確な判断ができることの例えです。「岡目」というのは「傍観者」の意味です。「目」というのは囲碁の地(囲んだ面積)の単位で、八目ほども得をするくらいに冷静な判断がくだせるということです。
スポーツを見ていて、「なんでそこでパスをするの?」「今のプレーは判断ミスだろう」などと批評をするのは簡単ですが、自分がその場にいたらもっといいプレーができていたかどうかは別問題です。
仕事においても、ミスが起きた後で状況を知った部外者は「こんな凡ミスをするなんて考えられない」と呆れるかもしれませんが、自分が同じ状況でその作業をしていたら同じミスをしていたかもしれません。当事者になると、ちょっとした不注意や思い違いからとんでもないミスをする可能性は誰にでもあるのです。
そういったミスを防ぐために、「岡目八目」を利用することができます。作業が終わったら、ミスがないか第三者にチェックしてもらうのです。チェック者は、直接その作業をしていない前提です。チェック者もその作業をしていたら、「当事者によるチェック」になってしまって、岡目八目を利用できなくなります。
チェック者は作業者よりも上位の立場にあることが望ましい。チェック者が作業者の部下や後輩だったり、作業者よりも技能が劣っていたりすると、「まあ大丈夫だろう」という前提でチェックをしてしまい、ミスを見逃すリスクが高まります。また、OKかNGか判断が微妙なケースで、作業者に遠慮してNGの判断が出せないかもしれません。
旅客機では機長と副操縦士が業務を分担します。過去の航空機事故の統計によると、機長が操縦しているときのほうが、はるかに墜落事故が起こりやすいことがわかっています。機長は副操縦士と比べて経験も技能も上回っているはずなのにどうしてそうなってしまうのでしょうか。
その理由の一つとして「機長の判断に疑念をもったとしても立場が下の副操縦士は指摘しづらい」ということが挙げられます。副操縦士が操縦しているときは、機長は遠慮なく副操縦士に対して質問や指摘をすることができますが、役割が逆になると「岡目八目」が機能しなくなるのです。
会社にとって大きな投資となる意思決定をするかどうか議論する会議があるとします。こういった会議は、しばしばGOを出す前提で進められます。本来は市場や競合を分析し、メリット/デメリットを入念に検討したうえで結論を出す必要があるのですが、GOという結論を出すのに都合がいい情報が強調され、都合が悪い情報は少しだけ、申し訳程度に添えられる程度となってしまうことがあります。「この情報を出したら議論が否決に傾きそう」という情報がある場合は、あえて提示されなかったりします。
会議で検討されるべきリスクが無視されないようにするためにはどうすればいいでしょうか。ここでも「岡目八目」が活躍します。第三者がオブザーバーとして会議に参加して、「検討されるべき事項が議論されていない」「全体が誤った方向に進んでいる」といった事態が発生していないかチェックするのです。
会議やプロジェクトにおいてオブザーバーが機能するためには、決定権者の協力が必要不可欠です。形だけオブザーバーをおいただけでは、オブザーバーは「せっかく一致団結して進めようとしているのに水を差す厄介者」として嫌われるだけです。適切なオブザーバーを選び、メンバー全員がオブザーバーのことを「会議やプロジェクトの意思決定の質を上げるために必要な人材である」という認識を持てば、オブザーバーがうまく機能するでしょう。