梅崎春生の猫と酒の話

最近、梅崎春生の本をよく読んでいます。梅崎春生(1915年生まれー1965年没)は、海軍体験を基にした『桜島』や直木賞受賞作『ボロ家の春秋』などの小説を書いた作家です。今回は個人的に興味をひかれた短編をいくつか紹介します。

『カロ』という作品では、梅崎の家で飼っているカロという猫が登場します。カロが梅崎家の茶の間を通るときは、頭を低くしてすり足で歩きます。なぜそんな姿勢になるかというと、なんと梅崎が竹の棒でカロを打つからなのです。カロは美食家で、汁かけ飯などには眼もくれません。鯨の肉を差し出したのに前脚でつついただけで匂いすらかごうとしない姿を見て、梅崎は竹の棒を振りかざして屋根の上まで追いかけまわしたそうです。

『カロ』は約70年前の作品ですが、これが今の時代に書かれていたら作者は猛バッシングを受けるだろうな・・・と思っていたら当時でもかなり批判があったようです。『猫のことなど』という作品では、『カロ』が掲載された雑誌が発行されて1か月ばかりの間に、読者から「猫を叩くとは言語道断」といった趣旨の抗議の文書が数十通届いたと書かれています。

梅崎は『猫のことなど』の中で「猫がいじめられる小説を読んで抗議の手紙を書くなんて少々常軌を逸している。そういうところが猫マニアの変質性と言えるのかもしれない」と反論しています。これが現代のSNSでの発言だったらネット界騒然間違いなしです。数日後に反省コメントのアップとともに反論コメントが削除されることでしょう。

梅崎は『カロ』について「猫がいじめられる小説」と説明していますが、中身を見ると日常の事実を書いた随筆のように見えます。これも批判を集めた理由のひとつでしょう。

『飯塚酒場』は昭和18年頃の酒飲みたちの話です。当時、飯塚酒場は1回分の量が制限されていました。一度入場するとどぶろくの徳利2本と1皿のサカナがあって、それを平らげた後さらに飲みたければ一旦店を出て並びなおす必要がありました。店は5時開店で、5時少し前に店にいくと行列に並ぶ必要がありました。5時になると行列の先頭から仮に店の定員を30人とすると30人だけ入場させます。その30人が全員飲み終わって退場するまで次の30人は入れません。29人が退場したあと悠々とひとりで飲んでいたら、次の30人から袋叩きにもあいかねないのです。

先頭グループの客は入店後、酒を味わう間もなく素早く酒を飲み干します。そして、先頭グループが入店した分を詰める行列の動きが最後尾に伝わる前に、先頭グループのトップは店を飛び出して列の後ろを目指して駆け抜けます。行列の後ろの客は、トップが走ってくることで開店したことを知るわけです。先頭の客に続いて、飲み終わった客が並びなおすために次々と走ってきます。

酒飲みたちが競うように早飲みをして、店を出て猛ダッシュする姿は現代の日本では決して見られないのではないでしょうか。その時代に生きてみたいかと言われればためらってしまいますが、ちょっとだけ体験して戻れるのであれば、その時代に行って飯塚酒場を体験してみたいと思いました。

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