前回のブログで、ブルシットジョブ「書類穴埋め人」の仕事の典型例として反社チェックを紹介しました。今回は、その続きということで「財務報告に係る内部統制報告制度」について書いてみます。
上場している企業は、事業年度ごとに財務諸表などの財務計算書を提出する義務があります。この際、監査法人などから監査を受けた「内部統制報告書」を内閣総理大臣に提出しなければなりません。「財務報告が適切なプロセスで作成されている」、「財務報告に不正がない」ということを証明するものが「内部統制報告書」です。財務報告書は、その企業に投資するかどうかを決める際の重要な指標になります。その報告書の信頼性を担保するものが、内部統制報告書というわけです。内部統制報告書は意義あるものではありますが、とにかくやるべき作業が多いのです。特に、上場のために初めての内部統制報告書を作成するのは大変です。2回目以降は、前回のノウハウを活かせますし、前回の資料を使いまわせる部分もあるので楽になるのですが、初回はノウハウがないままイチから作りますから膨大な時間がかかります。
私が以前いた会社でも、上場のために内部統制報告書作成を進めていました。最初は社内メンバーだけでチームを組んで作業をしていたのですが、誰もノウハウを知らないので数か月で行き詰まりました。その後、前回のブログでも登場した「複数の企業を上場させた管理部門のプロ」が入社したのですが、それでも社内メンバーだけでは対応しきれず外部コンサルタントの力を借りることになりました。社内にコンサルタント用のデスクを用意して、しばらく数人が常駐していたのですが、その時間単価はコンサルタントのランクに応じて1万円~5万円程度。一番安いランクでも、1日8時間仕事をさせると8万円。最高ランクのコンサルタントが1日常駐したら40万円です。いくらなんでも高過ぎじゃないでしょうか。
具体的な作業内容について説明しましょう。作業のひとつとして、内部統制に関するチェックリストを使って、リストに書かれている内容を満たしているかチェックをします。このチェックリストは、特に書式は決まっていません。たいていの場合、内部統制報告書を監査する監査法人がチェックリストのサンプルを提供してくれるのでそれを使います。例えば、チェックリストに「法令遵守・倫理的行動の重要性について、研修等により社内への浸透が図られているか」という項目があったとしましょう。「もちろん、ちゃんと図られています!」と書くだけではダメです。この場合、実際にそのような研修が実施された日付と研修時の資料などの証拠を示す必要があります。担当者は、過去の研修記録を漁り始めます。「コンプライアンス研修」みたいなドンピシャの研修記録があればよいのですが、なければ次善策を考えます。例えば、「○月○日の全社朝礼で社長が法令遵守の重要性に触れていたな」ということを思い出したとしたら、その際の資料を引っ張り出して、それを研修の記録として提出します。そういうのもない場合、証拠づくりのために研修を実施します。ネットで切り貼りした急造の研修資料を使って、全社ミーティングのときに5分だけ時間を取って説明をします。それをもって、証拠とします。
上記のように、チェックリストの項目ひとつをクリアするだけで、それなりの手間がかかってしまう場合も多いのです。チェックリストの数はケースバイケースですが、少なくとも100件以上ありますから、全部クリアするのは大変なコストがかかります。財務部門やIT部門などで、専門的なすり合わせが必要なことも多いです。「内部統制のことを考えるとこういう手順にした方がいいけど、実務的な手間を考えると現実的ではない」という葛藤が往々にして発生するのです。そんなときはコンサルタントの出番です。うまい具合に落としどころを考えて、「チェックリストの内容を100%は満たしていないけどこういう方法で一定のカバーはできますのでこれで勘弁してもらえますか」というように監査法人と交渉してくれます。頼りにはなるのですが、それでもやはり時給数万円は高いと感じてしまいます。
このような作業を延々続けていると、「この仕事って会社の役に立っているのかな」という根本的な疑問が何度も頭をよぎります。そのような思いを振り払い、各部署に頭を下げて「前より時間も手間もかかる変更」をお願いしてようやく内部統制報告書が完成するのです。コンサルタントや監査法人に支払う金だけで数千万円、社内スタッフが関わった時間を時給換算すればその倍はコストがかかる仕事です。しかしこれ自体は売上や利益を生むものではありません。まさに、ブルシットジョブ「書類穴埋め人」の仕事の典型例といえるでしょう。
※今回の記事では内部統制報告書関連業務の一部を紹介しています。正確な全体像を説明すると文章量が膨大になるのでかなり簡略化して書いています。