「鈴木さん」とか、「佐藤さん」のように、「さん」というのは個人に付けるものです。したがって、フジテレビのことを「フジテレビさん」と呼んだり、総務部のことを「総務部さん」というのは誤った使い方だと言えます。皆さんは法人や組織に対して「さん」を付けるでしょうか。日本トレンドリサーチの呼称に関する調査によると、81.9%の人が「付ける」と回答しています。本来の使い方ではないのに、法人や組織にさん付けをするのはなぜでしょうか。いくつかパターンに分けて考察してみます。
まず、話している相手が所属している会社・組織にさん付けするパターンです。例えば、XYZ株式会社の社員と話しているときに「最近、XYZさんは調子がいいですね」といった使い方です。このような場合、正式な敬称として「御社」という言葉が存在します。しかし、ある程度付き合いが長く関係性ができている相手であれば、御社という言い方を堅苦しいと思うこともあるでしょう。そのような場合に、いきなり「XYZは調子がいいですね」と会社名を呼び捨てをするのに抵抗があると感じて、さん付けをしてしまうのではないでしょうか。つまり、「御社」と「呼び捨て」の中間に位置するちょうどいい距離感の言葉として「さん」が利用されているのでしょう。
もうひとつは、その会社・組織に属している人物(ひとりの場合も複数人の場合もある)を呼ぶための「さん付け」です。例えば、会社に出入りしている佐川急便のドライバーを呼ぶときに「佐川さん、この荷物もお願いします」と言ったりします。ドライバーの名前を覚えて名前で呼ぶのがより人間味があるのでしょうが、「佐川さん」であれば呼ぶ方も名前を覚えなくてもいいし、担当ドライバーが変わっても通じるので楽ですね。ある会社・組織に属している特定の個人でなく、誰でもいいので応じてほしいときもさん付けは便利です。例えば、会社の備品が故障して、総務部の誰でもいいので誰か対応してほしいときに「総務部さん、コピー機が壊れたみたいなので見てください」という呼びかけが成立します。他には、複数の派遣社員に対して指示を出す際に「派遣さんは13時に会議室に集まってください」など。これらのパターンにおいては、普通呼び捨ては使えません。法人への呼び捨てではなく、個人を呼び捨てにしているのと同じニュアンスがあるためです。普通の社会人であれば、佐川急便のドライバーに「佐川、この荷物もお願いします」とは言いません。
会社・組織に属している誰かへの呼びかけとしてのさん付けは便利なのですが、私はあまり好きではありません。なんとなく呼びかけている人との距離を感じてしまうのです。少し言い方を変えて、「総務部の方、どなたかコピー機が壊れたみたいなので見てください」とか、「派遣の皆さんは13時に会議室に集まってください」と言ってみるのはどうでしょうか。