千葉県習志野市のラーメン屋店長が、マナーの悪い客に対して怒りのツイートを上げて、ネットニュースにもなりました。その客は持ち込んだ弁当を店内で食べて、注文したラーメンを残したというのです。店長は「僕は毎日一生懸命ラーメン作っています。真剣に食べたけど無理だったら何も言いません。あまりにもひどすぎます」と嘆いています。店長が言うように、この客の行動は非常識であると考える人がほとんどでしょう。「食べられると思って注文したけど食べきれずに残してしまった」という場合と、「弁当を食べて、注文したラーメンを残した」という場合、いずれもラーメンが残されたという結果は同じです。しかしなぜ後者の方は「非常識だ」と思えるのでしょうか。
その理由のひとつとして、「人は仕事に意味を求める」ということが挙げられます。例えば、あなたが大量のデータを分析した結果をまとめた書類を作る仕事をしているとしましょう。何十枚にも及ぶ書類を上司に渡したらあなたの仕事は完了です。そして、上司はその書類を一瞥した後でシュレッダーにかけます。毎日ひたすら書類を作って、上司に渡して、その書類は捨てられるという仕事です。たとえ十分な給料をもらったとしても、そのような仕事にやりがいを感じられる人は少ないでしょう。人間は、ただパンのために仕事をしているわけではないのです。自分の仕事に意義を感じられなければモチベーションは失われてしまうでしょう。
行動経済学者のダン・アリエリーは、仕事の意味とやる気の関係について調べるために、おもちゃのレゴを使った実験を行いました。被験者は、報酬をもらってレゴを作ります。報酬体系は以下の通りです。
・1個目のレゴを組み立てると2ドルの報酬をもらえる
・2個目のレゴを組み立てると1ドル89セントの報酬をもらえる
・以下、1個作るごとに直前の報酬より11セント低い報酬をもらえる
・コストに見合う報酬を得られないと思った時点でレゴ作りをやめることができる
・時間制限はなし
被験者の環境は2つのパターンに分けられます。
(1)解体なしパターン
被験者には「次の協力者のために、完成したレゴは全部ばらしてパーツを箱に戻す」と説明する。完成したレゴは、その状態のまま机の下の「解体待ち」の箱にしまわれる。
(2)解体ありパターン
レゴが完成したら、被験者には何も説明せずに完成品を取り上げて解体する。被験者に聞かれたら、「次の分を作るためにばらしている」と説明する。
実験の結果、「解体なし」のパターンでは被験者は平均して10.6個の完成品を作りました。一方、「解体あり」のパターンでは平均7.2個でした。2つのパターンの両方とも、被験者は完成したレゴはずっと飾られるわけではなく次の作成者のために解体されるということを知っています。異なるのは、目の前で解体されるかどうかという点だけです。そして、解体されるのを目の前で見せられた被験者は、そうでない被験者よりも作る意欲を失ってしまうのです。
このように、人間は自分がやっている仕事に意味がないと感じるとモチベーションを持てなくなります。最初に出てきたラーメン店に話を戻すと、「食べきるつもりで注文したが思ったより量が多くて残してしまった」ということであれば店長もモチベーションを維持できるでしょう。しかしラーメンを食べる前に弁当を食べるのは、最初から食べる気がないということです。心情的には、ラーメンを提供するやいなやどんぶりをトイレに持って行って中身を流されるようなものです。似たようなことは、飲食店だけではなくオフィスでも起こりえます。他人が作ったレゴを解体するような行動をとっていないか、ときどき注意して振り返ってみるのもよいでしょう。