1990年代のマサチューセッツ工科大学で、習慣に沿った行動をしているときに頭の中で何が起こっているか検証するためにラットを使った実験がおこなわれました。ラットは迷路に放り込まれて、正しいルートを通るとチョコレートを得られます。迷路の中でラットは通路をうろちょろしたり、壁を引っかいたりします。ラットが激しく動き回っているとき、脳の活動は活発になります。同じラットでこの実験を繰り返しているうちに、ラットがルートを間違える頻度は減っていきました。正しいルートを覚えたようです。ラットがルートを覚えるにつれて、脳の活動は低下していきました。
人間でも同様のことが起こります。初めての場所には、しっかり下調べをしてから行くでしょう。「7時10分発の〇〇線に乗って、7時30分に▲▼線に乗り換えて7時40分に■■駅に到着。駅の東口を出て右手に見える銀行を左折、そのあと~~~で、7時50分に目的地到着」という具合に。電車に乗っていれば「あと2駅で乗り換えだ」と意識します。徒歩で目的地に向かっているときは、昔なら地図やメモ、今ならスマホの地図アプリを片手に「今ここで、2つ目の信号が来たら左に曲がろう」といった感じで頭の中はフル回転しているでしょう。しかし、同じ場所に何回か通っているうちに、何も考えなくても目的地に到着するようになります。イヤホンで音楽を聴いて、LINEの返信をしながらでも降りる駅が来たら降りられるし、2つ目の信号で左折できるようになります。車の運転、住宅ローンの審査、ネットワーク障害の対応・・・これらはとても複雑な作業ですが、習慣として定着すれば深く考えなくても問題なく実行できます。脳は楽をしたがる器官のようです。そのため、決まった手順は習慣として定着させて、脳が活発に働かなくても無意識のうちにできるようにするのです。
習慣に基づいた行動をしているとき脳の活動が低下するため、創造性を発揮することは難しくなります。創造性を発揮したい場合は、「普段と違う行動をとる」とか「普段と違う場所で仕事をする」といった変化を加えてみるのもいいと思います。毎週水曜日の14時、会議室Aで新規事業のアイデアについて話し合っているのであれば、たまには会議室Bで話をしてみるとか、オフィスを出て貸し会議室を借りるのもいいでしょう。6000人以上を対象に、画期的なアイデアがどこで生まれているか調査されました。「職場」と答えた人は10%だけでした。51%は旅行しているとき、博物館の見学中、海岸の散歩中など、日常的な環境から離れたところと答えたのです。
創造性を必要としない機械的な事務作業であれば、決まった環境、決まった時間で習慣として処理すれば、脳のリソースを浪費することなく効率的に進められるでしょう。一方、創造性を発揮したい作業に着手するときは、あえて環境を変えるなどして脳を活性化するのがおすすめです。