感情に訴えて人を動かすには

カーネギーメロン大学である実験が行われました。被験者はIT機器に関するアンケートに答えました。アンケートの記入を終えた被験者は謝礼として1ドル札5枚を受け取ると同時に、寄付の依頼状も手渡されました。依頼の内容は、世界の子どもたちの福祉向上のための団体「save the children」に寄付をお願いします、という内容です。依頼状は2種類ありました。

1つ目の依頼状の内容
・マラウィの食糧難は300万人の子供に影響を与えています
・アンゴラでは国民の3分の1にあたる400万人が難民や国内避難民になっています
・エチオピアでは1100万人の国民が緊急食糧援助を必要としています

2つ目の依頼状の内容
・寄付金はすべてロキアというマリに住む7歳の女の子に贈られます。彼女は困窮した生活を送ってい て、毎日飢えに苦しんでいます。「save the children」は、寄付金でロキアにとって必要な食事・教育・医療を提供します。

被験者はそれぞれ2種類のうちいずれかの依頼状を渡されて、寄付するかどうか、寄付する場合は金額を決めて依頼者に渡しました。1つ目の依頼状の寄付額は平均1.14ドル、2つ目は平均2.38ドルでした。「何百万人もの人が苦しんでいる」という統計的なデータよりも、たったひとりの人間の情報の方が人の心を動かすようです。

この実験には続きがあります。別のグループには1つ目と2つ目の依頼状、両方を手渡しました。その結果、被験者の寄付額は平均1.43ドルになりました。ロキアの情報だけ見た人よりも、1ドル近く寄付額が減ってしまったのです。

なぜこのような結果になるのか確かめるために、新たな実験が行われました。この実験では、一部の被験者に事前にこのような質問をしました。
「ある物体が1.5m/分の速度で移動するとき、この物体が360秒で何m移動するでしょう」
別のグループには、このような質問をしました。
「『赤ちゃん』という言葉を聞いたときに感じることを表現してください」
その後、両方のグループにロキアのことが書かれた手紙を渡しました。その結果、計算問題を渡された最初のグループの寄付額は平均1.26ドルで、後のグループの寄付額は平均2.34ドルでした。

一連の実験結果から、以下のような仮説が成り立つのではないでしょうか。
「分析的・論理的思考をすると感情的な思考が妨げられてしまう」
ロキアのことが書かれた手紙を読むと、ロキアの困窮した様子が頭の中に浮かんで「この少女を救いたい」という感情が湧き上がってくる。そこに統計データや計算問題が割り込んでくると、感情が冷めて寄付する意欲も薄まってしまうのではないでしょうか。

全体ではなく個々にスポットを当てて感情を動かすという方法は、広告でもよく利用されています。ACジャパンの動物愛護に関する新聞広告では、愛くるしい子犬の写真とともに「その一目惚れ迷惑です。」というコピーが書かれています。そこには、1年間で殺処分される動物の数や捨てられる飼い犬の数などのデータは一切ありません。しかし、この写真1枚を見ただけで多くの人はこの子犬が飼育を放棄されて捨てられてしまう未来が頭をよぎり、ペットを飼うことの意味を改めて考えることになるでしょう。

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