犯人探しをしたがる人々

2007年、ロンドンで1歳の男の子が虐待と育児放棄の末、亡くなるという事件が起きました。この事件において、虐待の当事者である母親とその恋人とは別の人々がマスコミの激しい非難に晒されました。マスコミのターゲットになったのは、地区児童安全保障委員会委員長のシュースミス氏、そして亡くなった男の子を担当していたソーシャルワーカーのウォード氏です。「二人がしっかり仕事をしていれば、男の子が亡くなることはなかった」という理屈で、怒りの矛先が向けられたのです。二人の解雇を求める嘆願書には160万人もの署名が集まりました。二人のもとには脅迫状が届けられ、二人は身を隠さざるを得ませんでした。

その結果、ソーシャルワーカーの辞職が大幅に増え、新たにソーシャルワーカーになる人は激減しました。現役のソーシャルワーカーは一人で以前よりも多数の案件を抱えて、一人ひとりの子どもにかけられる時間は減りました。ソーシャルワーカーたちは「担当している子どもに何かあって、ウォードのようになりたくない」という思いから、家庭への介入を増やしました。裁判所から出される保護命令の件数は急増し、多くの子どもたちが家族から引き離されることになりました。

ソーシャルワーカーが書く報告書やその他の文書はどんどん長くなっていきました。何か問題があったときに「自分は悪くない」という証明をするためです。そうした文書作成に多くの時間が割かれ、本質的な活動は置き去りにされていきました。マスコミはそうした状況を大々的に報道しました。「虐待なんてしていないのに、ソーシャルワーカーに虐待を疑われて子どもと引き離される親たち」の姿をクローズアップしたのです。

人は結果だけを見て、特定の人や団体を悪者にして避難しがちです。そうするとターゲットになった人たちはダメージを受けますが、事態の改善にはつながりません。航空業界では、問題が起こった際に個人を非難せずに原因を究明する仕組みがあります。航空事故が起こった際、航空会社とは独立した機関が事故について徹底的に調査します。調査結果が民事訴訟で証拠として採用されないことになっているので、機長をはじめとした当事者は真実を話しやすいのです。

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