意思決定がマヒする瞬間

スーパーの入り口近くに、ジャムの試食コーナーがあります。ある日は、6種類のジャムが展示されました。別の日には、24種類のジャムが展示されました。6種類の日は、試食した人のうち30%がジャムを購入しました。一方で、24種類の日は試食した人のうち実際に購入したのは3%にとどまったのです。これはコロンビア大学アイエンガー教授による実験結果です。ここでは、「意思決定の麻痺」と呼ばれる現象が起きています。多すぎる選択肢を前にすると、私たちは凍り付いて意思決定ができなくなってしまうのです。

あなたが慢性的な関節炎に苦しむ患者を担当する医師だとします。患者には治療薬を試しましたが効果がなかったので、別の選択肢として関節の手術を検討しています。ただしこの手術は、術後に長いリハビリを要するなど患者に一定の負担がかかります。ここで、新たな選択肢が浮上します。まだ試していない薬があったのです。あなたは患者の治療法として、手術と投薬、どちらを選択しますか?

これは、医師のレデルマイヤーと心理学者のシャフィールの研究で考案された質問です。医師に聞いたところ、47%が投薬による治療を選択しました。この研究には続きがあります。別の医師グループには同じ症例で、「まだ試していない薬が2種類あるとき、あなたは手術と投薬のどちらを選択しますか?」と質問しました。薬が2種類ある状況では、2種類いずれかの投薬による治療を選んだ医師は28%にとどまりました。つまり、手術 or 薬1の2択だったら薬1を選ぶ医師が47%いて、その一部は手術 or 薬1 or 薬2の3択になると手術を選ぶということです。「手術よりも薬1の方が好ましい」という判定をしているのに、選択肢に別の薬が加わったら「薬1よりも薬2よりも手術の方が好ましい」という判定をしているのです。これは論理的に考えればあり得ないことです。しかし、平均と比べれて非常に高い知能を有すると思われる医師ですら、このような非合理的な行動をとってしまうものなのです。

意思決定の麻痺が起こる背景の一つとして、意思決定には負担がかかるということがあります。選択肢について、それぞれのメリット・デメリットや選んだあと起こりうる結果を想像し、可否を決定するという作業は疲労を伴います。多すぎる選択肢を提示されると、私たちは台所に山積みにされた汚れた皿を前にしたときのように思考停止してしまうのです。

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